文学史 / 近代・現代文学史
大正〜昭和戦前文学(白樺派・耽美派・プロレタリア文学・新感覚派)
要点整理
大正〜昭和戦前文学とは何か
大正時代(1912年〜1926年)から昭和戦前期(1926年〜太平洋戦争終結の1945年まで)にかけての文学は、明治の自然主義・反自然主義の流れを受けつつ、複数の個性的な流派が同時期に並び立ったことが特徴です。この単元では、代表的な4つの流派、白樺派・耽美派・プロレタリア文学・新感覚派を、それぞれの理念の違いに注目しながら整理します。
| 流派 | 中心となる理念 | 代表作家 |
|---|---|---|
| 白樺派 | 人道主義・自己肯定 | 志賀直哉・武者小路実篤・有島武郎 |
| 耽美派 | 美の追求 | 谷崎潤一郎・永井荷風 |
| プロレタリア文学 | 社会変革・階級闘争 | 小林多喜二・徳永直 |
| 新感覚派 | 感覚的・斬新な表現 | 川端康成・横光利一 |
白樺派——人道主義と自己肯定
白樺派は、学習院出身の裕福な家庭の若者たちが中心となって雑誌『白樺』を創刊し、人道主義・理想主義を掲げた文学者集団です。個人の生命力や個性を、肯定的に、のびのびと描く点に特徴があります。
志賀直哉は、その鋭い写実的な文体から「小説の神様」とも呼ばれ、日常の一瞬を切り取った短編**『城の崎にて』や、主人公の苦悩と再生を長期にわたって描いた長編『暗夜行路』で知られます。武者小路実篤は、理想主義・人道主義を最も直接的に体現した作家で、『お目出たき人』などで知られ、実際に「新しき村」という理想郷の建設運動を実践したことでも知られます。有島武郎は、自我に目覚めた女性の情熱的な生き方を描いた『或る女』**で知られています。
耽美派——美の追求
耽美派は、道徳や社会性よりも、美そのものを至上のものとして追求する立場です。白樺派の健全な人道主義とは対照的に、時に背徳的・退廃的な美を描くことも辞さない点に特徴があります。
谷崎潤一郎は、初期の**『刺青』で、美に取りつかれた人間の耽美的な世界を描き、後には『痴人の愛』で、若い女性に翻弄される男の姿を通して、美と欲望の関係を追求しました。日本の陰影の美を論じた随筆『陰翳礼讃』も代表作の一つです。永井荷風は、江戸情緒の残る下町を舞台に、退廃的な美意識を描いた『墨東綺譚(ぼくとうきだん)』**で知られます。
プロレタリア文学——社会変革への視線
大正末期から昭和初期にかけて、労働者階級(プロレタリアート)の過酷な生活や、資本主義社会の矛盾を描き、社会変革を志向する「プロレタリア文学」が台頭します。白樺派・耽美派が個人の内面や美意識を追求したのとは対照的に、プロレタリア文学は、集団としての労働者の苦しみや、階級間の対立という、社会的なテーマを前面に押し出す点に大きな特徴があります。
小林多喜二による**『蟹工船』は、劣悪な環境で酷使されるカニ漁船の労働者たちが、団結して立ち上がる姿を描いた代表作です。徳永直による『太陽のない街』**も、労働争議を題材とした代表的な作品として知られます。
新感覚派——感覚的な表現の革新
昭和初期には、既成の写実的な文章表現にとらわれない、斬新な比喩や感覚的な文体を追求する「新感覚派」が現れます。これは、社会的なテーマを重視するプロレタリア文学とは対照的に、あくまで文体・表現の革新そのものに主眼を置く点に特徴があります。
川端康成は、伊豆を旅する学生と旅芸人一座の少女との淡い交流を描いた**『伊豆の踊子』、雪国を舞台にした男女の関係を、繊細で情緒的な文体で描いた『雪国』などで知られ、1968年に日本人として初めてノーベル文学賞を受賞しました。横光利一は、感覚的な文体の実験作『機械』や、上海を舞台にした『上海』**などで、新感覚派を代表する作家として知られます。
まとめ
この時代の4つの流派は、「個人の内面(白樺派)」「美の追求(耽美派)」「社会変革(プロレタリア文学)」「表現の革新(新感覚派)」という、それぞれ異なる方向性を持つ運動として対比しながら整理すると理解しやすくなります。同じ時代に、これほど性格の異なる流派が並び立ったこと自体が、大正〜昭和戦前期の文学の豊かさを示しています。
例題
例題1(基本)
問題
白樺派の中心的な作家で、その鋭い写実的な文体から「小説の神様」と呼ばれた人物は誰か答えよ。また、その代表作を1つ挙げよ。
解答・解説を見る
「小説の神様」と呼ばれた白樺派の作家は志賀直哉です。無駄のない、鋭い観察に基づく写実的な文体で高く評価されました。代表作としては、日常の一瞬を切り取った短編**『城の崎にて』、あるいは主人公の苦悩と再生の過程を長期にわたって描いた長編『暗夜行路』**のいずれかを挙げれば正解です。
答え:志賀直哉。代表作は『城の崎にて』(または『暗夜行路』)。
例題2(標準)
問題
耽美派とプロレタリア文学は、同じ大正〜昭和戦前期に並び立った流派でありながら、その理念は対照的である。両者の理念の違いを説明し、それぞれの代表作を1つずつ挙げよ。
解答・解説を見る
耽美派は、道徳や社会性よりも、美そのものを至上のものとして追求する立場です。個人の内面における美意識や欲望を掘り下げることに主眼があり、代表作には谷崎潤一郎の**『痴人の愛』**(または『刺青』)があります。
プロレタリア文学は、これとは対照的に、労働者階級の過酷な生活や、資本主義社会の矛盾という、社会的・集団的なテーマを描くことに主眼を置きます。代表作には小林多喜二の**『蟹工船』**があります。
まとめると、耽美派が「個人の美意識の追求」に向かうのに対し、プロレタリア文学は「社会の変革」に向かう、という理念の方向性の違いとして整理できます。
答え:耽美派は個人の美の追求(代表作『痴人の愛』)、プロレタリア文学は社会変革・階級闘争(代表作『蟹工船』)を理念とする。
例題3(応用)
問題
次の説明にあてはまる作家名を答え、判断の根拠となった特徴を本文中の語句を用いて説明せよ。
「伊豆を旅する学生と旅芸人一座の少女との淡い交流を描いた作品や、雪国を舞台にした男女の関係を繊細な文体で描いた作品で知られる。既成の写実的な表現にとらわれない、感覚的な文体を追求した流派に属し、日本人として初めてノーベル文学賞を受賞した。」
解答・解説を見る
「伊豆を旅する学生と旅芸人一座の少女」という記述は『伊豆の踊子』を、「雪国を舞台にした男女の関係」という記述は『雪国』を、それぞれ指しています。この2作品の作者は川端康成です。
さらに「既成の写実的な表現にとらわれない、感覚的な文体を追求した流派」という記述は「新感覚派」の定義と一致しており、「日本人として初めてノーベル文学賞を受賞した」という事実も、川端康成に特有の情報です。これらすべての手がかりが一人の人物に集約されることから、川端康成と判断できます。
答え:川端康成。『伊豆の踊子』『雪国』という代表作、新感覚派への所属、日本人初のノーベル文学賞受賞という記述が、いずれも川端康成の特徴と一致する。
確認問題
問題
カニ漁船で働く労働者たちが、劣悪な環境の中で団結して立ち上がる姿を描いた、小林多喜二によるプロレタリア文学の代表作の作品名を答えよ。
答え
蟹工船