漢文 / 重要句法
否定形(不・非・無・未・莫)
要点整理
代表的な否定の文字
漢文の否定形でよく使われる文字には、次のようなものがあります。
| 文字 | 読み方 | 否定する対象 |
|---|---|---|
| 不 | ず | 用言(動詞・形容詞など)を打ち消す、もっとも基本的な否定 |
| 非 | あらズ | 名詞や、断定の文(「〜は…である」)を打ち消す |
| 無 | なシ | 「〜がない」という、存在の否定 |
| 未 | いまダ〜ず | 「まだ〜ない」(再読文字。前のトピックを参照) |
| 莫 | なシ・なカレ | 「〜がない」(無と同じ)、または「〜するな」(禁止) |
不がもっとも基本的で、動詞や形容詞をそのまま打ち消します。たとえば「不レ知」は「知らず」(知らない)となります。
非は、動詞ではなく名詞や断定の内容を打ち消す点が特徴です。「非二君子一」は「君子に非ず」(君子ではない)となります。日本語の「〜ではない」に近い働きです。
無は、「持っていない」「存在しない」ことを表します。「無レ人」は「人無し」(人がいない)となります。
莫は少し注意が必要な字で、文脈によって2つの意味を持ちます。
- 文の初めで、命令・勧告の対象に対して使われると「なカレ」(〜するな、禁止)。例:「莫レ言。」→「言ふ莫かれ。」(言うな)
- 主語のあとに置かれ、「〜する者がいない」という意味で使われると「なシ」(無と同じ、存在の否定)。例:「人莫レ知。」→「人知る莫し。」(誰も知らない)
どちらの意味になるかは、文の形(禁止を命じる相手がいるか、それとも「〜する人がいない」という状況を述べているか)から判断します。
部分否定と全部否定
否定を表す語と、程度・頻度を表す副詞(必・常・復・尽など)が組み合わさると、語順によって意味が大きく変わります。
- 部分否定:否定語が副詞より前に来る形。「一部だけ・ある場合だけ否定する」という意味になります。
- 例:不二必~一(必ずしも〜ず、「必ずそうだ」というわけではない)
- 例:不レ常(常には〜ず、いつもというわけではない)
- 全部否定:副詞が否定語より前に来る形。「全体をきっぱり否定する」という意味になります。
- 例:必不レ~(必ず〜ず、絶対に〜しない)
見分け方のコツは、副詞と否定語のどちらが先に来ているかだけです。「否定語→副詞」なら部分否定、「副詞→否定語」なら全部否定、と機械的に判断できます。
二重否定
否定の語を2回重ねると、打ち消しを打ち消すことになり、結果として強い肯定を表します。日本語の「〜しないことはない」=「必ず〜する」と同じ発想です。
代表的な形には、無レ不〜(〜せざるは無し)、莫レ不〜(〜せざるは莫し)、不レ不〜(〜せずんばあらず)などがあります。いずれも「〜しないものはない」→「みな〜する」という強い肯定の意味になります。
例題
例題1(基本)
問題
次の文を書き下し文にし、現代語訳せよ。
過而不レ改、是謂レ過矣。
解答・解説を見る
「過而」はそのまま「過ちて」(過ちを犯して)と読みます。「不レ改」はレ点により「改」を先に読んでから「不」に返るので、「改めざる」となります(「不」は連体形「ざる」)。「是謂レ過」も同様にレ点で「過(あやまち)と謂ふ」となります。「矣」は置き字なので書き下し文には書きません。
答え:過ちて改めざる、是を過ちと謂ふ。/ 過ちを犯しても改めないこと、これを本当の過ちというのだ。
これは『論語』にある言葉で、「失敗すること自体よりも、失敗を改めないことの方が本当の過ちだ」という教えです。
例題2(標準)
問題
次の文を現代語訳せよ。また、これが部分否定か全部否定かを答えよ。
人不二必読一レ書。
解答・解説を見る
まず書き下し文にすると、「人必ずしも書を読まず。」となります。
副詞「必」が否定語「不」よりも後ろ、つまり「不」→「必」の順に並んでいることに注目します。「否定語が副詞より前」なので、これは部分否定です。
部分否定なので、「まったく読まない」という全否定の意味ではなく、「必ず読むというわけではない(読む場合も読まない場合もある)」という、一部だけを否定する意味になります。
答え:人は必ずしも書物を読むわけではない。(部分否定)
もしこれが「人必不レ読レ書。」(必ず書を読まず)のように、「必」が「不」より前に来ていれば、全部否定になり、「人は決して書物を読まない」という意味に変わります。語順の違いだけで意味が正反対に近く変わることを、必ず押さえておきましょう。
例題3(応用)
問題
次の文を書き下し文にし、現代語訳せよ。
無レ不レ知。
解答・解説を見る
「知」にレ点が付いているので、「知る」を先に読んでから「不」に返り、「知らざる」となります(連体形)。さらにその「不レ知」全体に「無」からのレ点が付いているので、「知らざる」を読んでから「無」に返り、「無し」となります。
読む順は「知→不→無」です。
答え:知らざる無し。/ 知らないことがない。=(すべてを)知っている。
「無」と「不」という否定の語が2つ重なる二重否定の形です。「知らないことは無い」と、否定を2回重ねることで、実質的には「すべてを知っている」という強い肯定の意味を表しています。二重否定に出会ったら、まず1つずつの否定を確認したうえで、全体としては強い肯定の意味になることを意識しましょう。
確認問題
問題
次の文を現代語訳せよ。また、部分否定・全部否定のどちらかも答えよ。
我不二復語一レ人。
答え
私は二度とは人に語らない。(部分否定。「復」が「不」より後ろにあるため、「二度とは〜ない」という一部否定になる。)