古典(古文) / 助動詞
推量の助動詞(2)らむ・けむ・まし・らし
要点整理
このページでは、意味も接続も特徴的な4つの助動詞「らむ」「けむ」「まし」「らし」を学びます。前のページの「む・べし」に比べて出現頻度は下がりますが、意味の違いがはっきりしているぶん、識別問題としてよく狙われます。
「らむ(らん)」— 現在推量
「らむ」は終止形に接続します(ラ変・ラ変型活用語には連体形接続)。活用は四段活用の一部の形を借りたようなパターンで、使われるのは終止形・連体形・已然形のみです。
| 終止形 | 連体形 | 已然形 |
|---|---|---|
| らむ | らむ | らめ |
意味は現在推量です。話し手の目の前にはない、今どこか別の場所で起こっているであろうことを推量する(「今頃しているだろう」)のが基本の意味で、「など・なぜ」などの疑問語と一緒に使われると、現在の原因推量(「どうしてしているのだろう」)になります。
「けむ(けん)」— 過去推量
「けむ」は連用形に接続します。活用のパターンは「らむ」と同じで、終止形・連体形・已然形のみを使います。
| 終止形 | 連体形 | 已然形 |
|---|---|---|
| けむ | けむ | けめ |
意味は過去推量です。過去に起こったであろうことを推量する(「しただろう」)のが基本の意味で、「らむ」と同じく疑問語を伴うと過去の原因推量(「どうしてしたのだろう」)になります。
「らむ」と「けむ」は、意味(現在か過去か)だけでなく、接続でも見分けられます。「らむ」は終止形接続、「けむ」は連用形接続です。直前の語がどちらの活用形かを確認すれば、意味を考える前に助動詞を特定できます。
「まし」— 反実仮想
「まし」は未然形に接続する、独特な活用をする助動詞です。
| 未然形 | 連用形 | 終止形 | 連体形 | 已然形 | 命令形 |
|---|---|---|---|---|---|
| ませ(まし) | ○ | まし | まし | ましか | ○ |
「まし」の意味は反実仮想です。「もしだったら、だろうに」というように、実際には起こっていない事実に反する状況を仮に想定して述べます。代表的な構文が「ましかば(せば)まし」で、『伊勢物語』に収められた在原業平の有名な和歌「世の中に絶えて桜のなかりせば春の心はのどけからまし」は、まさにこの構文の例です(「もし世の中に桜が全くなかったならば、春を過ごす人の心はもっとのどかであっただろうに」という、桜があるからこそ心が落ち着かない、という気持ちを裏返しに詠んだ歌です)。
「らし」— 推定
「らし」は終止形に接続します(ラ変・ラ変型活用語には連体形接続)。活用はほとんど語形が変化しない特殊なパターンです。
| 終止形 | 連体形 | 已然形 |
|---|---|---|
| らし | らし | らしけれ |
意味は推定です。単なる想像ではなく、目に見える根拠に基づいて確からしいと判断するときに使われます。『万葉集』に収められた持統天皇の有名な和歌「春過ぎて夏来るらし白妙の衣干したり天の香具山」は、香具山に白い衣が干してあるのが見える、という視覚的な根拠から「もう夏が来たらしい」と推定している、「らし」の典型例です。
例題
例題1(基本)
問題
次の傍線部の助動詞の意味を答えなさい。
「かの人、今頃は都に着きぬらむ。」
解答・解説を見る
「らむ」は終止形に接続する助動詞で、意味は現在推量です。「今頃は」という、現在の時点についての推量を表す言葉が文中にあることからも、現在推量であることが裏付けられます。
答え:現在推量(今頃はもう都に着いているだろう)
例題2(標準)
問題
次の傍線部「けむ」の意味を答え、「らむ」との違いを接続の観点から説明しなさい。
「昔、この山に鬼の住みけむ。」
解答・解説を見る
「住み」は動詞「住む」の連用形です。連用形に接続する助動詞は「けむ」であり、「らむ」(終止形接続)ではありません。この時点で接続だけから「けむ」だと確定できます。
意味は過去推量です。「昔」という過去を表す言葉があることからも、過去のできごとについての推量だとわかります。「らむ」が現在推量(終止形接続)であるのに対し、「けむ」は過去推量(連用形接続)であり、接続の違いがそのまま意味の違い(現在か過去か)に対応しています。
答え:過去推量(昔、この山に鬼が住んでいただろう)。「らむ」は終止形接続で現在推量、「けむ」は連用形接続で過去推量という対応がある。
例題3(応用)
問題
『伊勢物語』の和歌「世の中に絶えて桜のなかりせば春の心はのどけからまし」について、傍線部「まし」を含む表現全体が反実仮想であると判断できる根拠を、構文の形から説明しなさい。
解答・解説を見る
この歌には「せばまし」という構文が使われています。「せば」は、助動詞「き」の未然形「せ」に接続助詞「ば」が付いた形で、「まし」の未然形接続と組み合わさって、「もしだったならば、だろうに」という反実仮想の定型構文を作ります。
内容を見ても、「世の中に桜が全くない」というのは、実際には起こっていない(現実には桜は存在する)仮定の話です。事実に反する状況を想定して、「もしそうだったら、春を過ごす人の心はもっとのどかであっただろうに」と述べているので、反実仮想の用法だと判断できます。
答え:「ましかば(せば)まし」という反実仮想の定型構文が使われており、内容も「桜が全くない世の中」という事実に反する仮定を述べているため。
確認問題
問題
助動詞「らし」の意味と、その意味の判断に必要な条件(何に基づいて判断するか)を答えなさい。
答え
推定。目に見える根拠(視覚的な証拠など)に基づいて確からしいと判断する。