古典(古文) / 古文読解
頻出ジャンル(日記・物語・説話・随筆)の特徴
要点整理
古文の入試問題に出題される文章は、大きく物語・日記・説話・随筆の4つのジャンルに分けられます。ジャンルごとに文章の型や描かれる内容の傾向が異なるため、どのジャンルの文章かを早めに見抜けると、読解のスピードと精度が上がります。
物語(ものがたり)
虚構の筋書きを持つ文学です。地の文による説明・描写に加えて、和歌が効果的に挿入されることが多いのが特徴です。
- 作り物語:『竹取物語』(現存最古の物語とされる)、『宇津保物語』など、虚構の筋を独自に展開するもの。
- 歌物語:『伊勢物語』、『大和物語』など、和歌を中心に、それにまつわる短い話を積み重ねていく形式。
- 王朝物語の集大成:『源氏物語』(紫式部、平安中期)は、作り物語と歌物語の要素を統合し、心理描写を大きく発展させた、平安文学の最高峰とされる作品です。
物語を読むときは、登場人物どうしの関係と、敬語による身分の上下に特に注目しましょう。
日記(にっき)
作者自身の体験や心情を、時間の経過に沿って回想的に綴った文学です。多くは平安時代に、女性(または女性に仮託した男性)によって仮名文字で書かれました。
- 『土佐日記』(紀貫之、935年頃):男性である紀貫之が女性に仮託して書いた、現存最古の仮名日記とされる作品。
- 『蜻蛉日記』(藤原道綱母):結婚生活の苦悩を赤裸々に綴った日記。
- 『紫式部日記』(紫式部):宮廷生活の記録と、自己省察を含む日記。
- 『和泉式部日記』(和泉式部):恋愛をめぐる贈答歌を中心とした日記。
- 『更級日記』(菅原孝標女):少女時代から晩年までを回想する自伝的日記。
日記を読むときは、時系列の流れと、作者自身の心情の動きに注目しましょう。物語と違って一人称的な視点で書かれているため、地の文の敬語は、作者から作中の他の人物への敬意として機能します。
説話(せつわ)
仏教説話(仏教の教えにまつわる話)や世俗説話(民間に伝わる不思議な話・教訓話)を集めた文学です。
- 『今昔物語集』(平安末期):天竺(インド)・震旦(中国)・本朝(日本)の説話を集大成した、日本最大の説話集。「今は昔」という書き出しが特徴的です。
- 『宇治拾遺物語』(鎌倉初期):滑稽な話から教訓的な話まで、幅広い内容を含む説話集。
説話を読むときは、教訓や「オチ」がどこにあるかに注目しましょう。多くの説話は、最後に因果応報的な結末や教訓的なまとめが置かれる構成になっています。「今は昔」という定型句で始まっていれば、説話である可能性が高いと判断できます。
随筆(ずいひつ)
作者の見聞や思索を、決まった形式にとらわれず自由に綴った文学です。特に次の3作品は三大随筆と呼ばれます。
- 『枕草子』(清少納言、平安中期):「をかし」の文学と呼ばれ、宮廷生活の中で見出した美意識・観察眼を鋭く描きます。
- 『方丈記』(鴨長明、鎌倉初期):災害や戦乱を経験した作者の、無常観に基づく人生観を綴ります。
- 『徒然草』(兼好法師、鎌倉末期):無常観を背景にしつつ、処世訓や人間観察を豊富に含む、幅広い内容の随筆です。
随筆を読むときは、筆者自身の主張・価値観がどこに表れているかに注目しましょう。物語や説話と違って、必ずしも筋書きがあるわけではなく、一つの話題についての筆者の意見・感想がそのまま文章の中心になることが多いためです。
ジャンル判定の手がかりまとめ
| ジャンル | 代表作 | 読み方のポイント |
|---|---|---|
| 物語 | 竹取物語・伊勢物語・源氏物語 | 人物関係・敬語による身分把握 |
| 日記 | 土佐日記・更級日記 | 時系列・作者の心情の動き |
| 説話 | 今昔物語集・宇治拾遺物語 | 「今は昔」の型、教訓・オチの位置 |
| 随筆 | 枕草子・方丈記・徒然草 | 筆者自身の主張・美意識・価値観 |
例題
例題1(基本)
問題
次の書き出しの文章は、物語・日記・説話・随筆のどのジャンルの可能性が最も高いか答えよ。
「今は昔、ある山寺に、心をこめて仏に仕ふる僧ありけり。」
解答・解説を見る
「今は昔」という書き出しは、説話に非常に多く見られる定型句です。この後には、僧にまつわる不思議な出来事や教訓的な結末が続く可能性が高いと予測できます。
答え:説話
例題2(標準)
問題
次の2つの書き出しを比較し、それぞれどのジャンルにあたるか、判断の根拠とあわせて答えよ。
(1)「男ありけり。その男、身をえうなきものに思ひなして、京にはあらじ、あづまの方に住むべき国求めにとて行きけり。」 (2)「かくてあるほどに、三月つごもりがたに、桜のいみじう咲きたるを、ながめやりつつ、来し方のことなど思ひ出でて、涙ぐましくおぼゆ。」
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(1)は「男ありけり」で始まり、その後に旅立ちの経緯が語られる形式で、和歌が続く可能性が高い構成です。特定の男を主人公とした短い話がいくつも積み重なっていく形式は、歌物語(伊勢物語のような形式)の特徴です。
(2)は、特定の日付(三月つごもりがた)を示し、作者自身とおぼしき人物が桜を眺めながら過去を回想し、涙ぐむ心情を一人称的に語っています。時系列に沿った回想と、内面の心情描写が中心になっている点から、日記文学の特徴に合致します。
答え:(1)物語(歌物語)/(2)日記
例題3(応用)
問題
次の文章を読み、ジャンルを判定し、その根拠を、文体・内容の両面から説明せよ。
「花は盛りに、月は隈なきをのみ見るものかは。雨に向かひて月を恋ひ、垂れこめて春の行方知らぬも、なほあはれに情け深し。」
解答・解説を見る
この文章には、はっきりとした筋書き(ストーリー)がなく、「花や月は満開・満月のときだけを見るべきものだろうか、いや、そうではない」という、筆者自身の美意識・主張が直接語られています。特定の人物の身の上話でもなく、時系列に沿った回想でもなく、一つの話題についての意見・感想がそのまま文章の中心になっている点から、これは随筆と判断できます(実際にこの一節は『徒然草』の一部を踏まえた内容です)。物語であれば登場人物どうしのやりとりが、日記であれば作者自身の体験の時系列が中心になるはずですが、ここにはそのどちらの要素もなく、筆者の価値観そのものが主題になっていることが決め手です。
答え:随筆(筋書きがなく、筆者自身の美意識・主張が直接語られているため)
確認問題
問題
『今昔物語集』『宇治拾遺物語』はどのジャンルに属するか、また、その根拠となる書き出しの定型句を答えよ。
答え
説話/「今は昔」