古典(古文) / 古文読解

主語の把握のコツ

要点整理

なぜ古文は主語が省略されるのか

古文、特に平安時代の物語や日記は、同じ人物の動作が続く間、いちいち主語を書き直しません。これは、日本語がもともと「文脈から分かることは言わない」言語であることに加え、敬語表現そのものが主語を推定する手がかりを兼ねているためです。「〜給ふ」とあれば身分の高い人物の動作だとわかるので、あえて主語を書く必要がないのです。したがって、古文を読むときは、省略された主語を自分で補いながら読む技術が不可欠になります。

主語推定の4つの手がかり

①敬語

尊敬語が付いていれば動作主は身分の高い人物、謙譲語が付いていれば動作の相手が身分の高い人物です(前の単元「敬語からの人物関係の把握」で学んだ内容がそのまま使えます)。文中で敬語のレベルが変わったら、主語が変わった合図かもしれないと疑いましょう。

②接続助詞による主語の継続・転換の傾向

これは古文読解で最も実戦的な手がかりです。

  • 「て」「して」「つつ」でつながる場合 → 主語は変わらないことが多い
  • 「を」「に」「が」でつながる場合、また逆接の「ど」「ども」「已然形+ば」でつながる場合 → 主語が変わることが多い

これはあくまで傾向であり、絶対のルールではありません。しかし、長い一文の中で主語を見失いそうになったとき、「て」でつながっている間は同じ人物の動作が続いている可能性が高く、「を・に・が」で文が切れたところで、新しい人物が動作主として登場している可能性が高い、と当たりをつけるだけで、読解のスピードと精度が大きく上がります。

③会話文かどうかの判別

「」でくくられた会話文の中では、主語は「話している人物」自身か、話題に上っている別の人物かのどちらかです。会話文に入った瞬間、それまでの地の文の主語をそのまま引きずらないよう注意しましょう。「と言ふ」「とて」「となむ」など、引用を示す格助詞「と」に注目すると、会話文がどこで終わるかも判別しやすくなります。

④助詞「は」による主題の転換

「〜は、」という形で新しい人物が文頭に提示された場合、それはこれから新しい話題(主語)が始まる合図であることが多いです。

主語推定の手順

  1. 動詞ごとに敬語の有無・種類をチェックする。
  2. 接続助詞に注目し、同一主語が続いているか、転換しているかを判断する。
  3. 会話文かどうかを見極め、会話文中は改めて主語を捉え直す。
  4. 推定した主語を当てはめて、文脈が自然に通るかを確認する(通らなければ推定をやり直す)。

例題

例題1(基本)

問題

次の文を読み、傍線部①②の動作主をそれぞれ答えよ。

「男、女のもとに文をやり①て、返り事を待ちけり。されど、音もせざりければ、心細く②思ひけり。」

解答・解説を見る

①「文をやりて」は接続助詞「て」でつながっており、直前の主語「男」がそのまま動作主として続きます。したがって①の直後の「待ちけり」の主語も男のままです。

②「されど」(しかし)は逆接の接続語ですが、ここでは新しい人物が登場する文脈ではなく、同じ男が「返事が来ないので心細く思った」という心情を続けて述べています。逆接があるからといって必ず主語が変わるわけではなく、あくまで傾向であることに注意してください。ここでは文脈上、心細く思っているのも一貫して男です。

答え:①男/②男

例題2(標準)

問題

竹取物語の冒頭部分「今は昔、竹取の翁といふ者ありけり。野山にまじりて竹を取りつつ、よろづのことに使ひけり。名をば、さぬきの造となむいひける。」について、傍線部「つつ」の前後で主語は変わるか、変わらないかを答え、理由も述べよ。

解答・解説を見る

「つつ」は動作の反復・継続を表す接続助詞で、「て」と同じく、主語が変わらないことが多い接続助詞です。この文では、竹取の翁が「野山に分け入って竹を取っては(つつ)、いろいろなことに使っていた」という、一貫して同じ人物(竹取の翁)の動作が描かれています。

答え:主語は変わらない(竹取の翁のまま)。「つつ」は主語継続の接続助詞であり、竹を取ることと、それを使うことは、同じ竹取の翁の一連の動作だから。

例題3(応用)

問題

源氏物語の冒頭「いづれの御時にか、女御、更衣あまた候ひたまひける中に、いとやむごとなき際にはあらぬが、すぐれて時めきたまふありけり。」について、①「候ひたまひける」に含まれる敬語の種類、②「時めきたまふ」の主語について、身分の高さの観点から説明せよ。

解答・解説を見る

①「候ひ」は「あり・をり」の謙譲語(お仕えする、伺候する)、「たまひ」は尊敬の補助動詞です。謙譲語「候ひ」は、動作の相手(この場合は帝)への敬意を表し、尊敬語「たまひ」は動作主(女御・更衣たち)への敬意を表しています。つまりこれは、女御や更衣たちが帝にお仕えしている、という場面を、二方面への敬語で描いた文です。

②「時めきたまふ」にも尊敬の補助動詞「たまふ」が付いており、その動作主(寵愛を受けて栄えている人物)への敬意が示されています。ただし、この人物は「いとやむごとなき際にはあらぬ」(それほど高貴な身分ではない)とも説明されており、大勢いる女御・更衣の中の一人でありながら、帝から特別に目をかけられている人物(のちの桐壺更衣)であることが、敬語と身分の説明の組み合わせから読み取れます。

答え:①候ひ=帝への謙譲、たまひ=動作主(女御・更衣)への尊敬/②「時めきたまふ」人物は尊敬語で高められてはいるが、地の文で「それほど高貴な身分ではない」と説明されており、身分自体は高くないが帝の寵愛を受けている人物であるとわかる

確認問題

問題

「女、文を書き、使ひにやりつ。使ひ、急ぎ帰り、御返事を奉りけり。」について、傍線部「奉りけり」の動作主は誰か答えよ。

答え

使ひ(接続助詞「て」で直前の主語「使ひ」がそのまま継続しているため)