現代文 / 小説読解

心情把握の基本

要点整理

小説の設問は「心情」が土台になる

現代文の中で、小説の問題は評論文とは違う読み方が必要です。評論文は「筆者の主張とその論理」を追いますが、小説は「登場人物の心情とその変化」を追うことが読解の中心になります。実際、小説で出題される設問の多くは、形を変えていても「このときの○○の心情として最も適当なものを選べ」「傍線部のときの△△はどのような気持ちだったか」というように、結局は心情を問うものです。

したがって、小説を読むときは、ストーリーの筋(何が起きたか)を追うだけでなく、「そのとき登場人物はどう感じていたか」を常に意識しながら読み進める必要があります。心情把握には、大きく分けて4つの手がかりがあります。

手がかり①:心情語(直接表現)

もっとも確実な手がかりは、感情を直接表す心情語です。「悲しかった」「嬉しくてたまらなかった」「腹立たしさがこみ上げた」のように、本文中に感情そのものを表す言葉があれば、それをそのまま心情把握の軸にできます。

ただし、心情語が一語だけ書かれている場合でも、その前後の文脈(何がきっかけでその感情が生まれたのか)まで含めて理解することが大切です。「なぜそう感じたのか」を答えさせる設問(理由説明問題)につながることが多いためです。

手がかり②:表情・しぐさ(間接描写)

小説では、心情語をそのまま書かず、表情やしぐさによって心情を暗示する間接描写のほうがよく使われます。これは、感情を直接説明するより、読者に「想像させる」ことで文学的な効果を高めるためです。代表的な対応関係を知っておくと、読解のスピードが上がります。

表情・しぐさ 一般的に読み取れる心情
うつむく、目を伏せる 恥ずかしさ、後悔、気まずさ
唇をかむ、こぶしを握る 悔しさ、怒りを抑える気持ち
目をそらす、視線が泳ぐ 動揺、後ろめたさ、気まずさ
頬が赤くなる 恥ずかしさ、照れ、興奮
肩を落とす、ため息をつく 落胆、疲労感、あきらめ
目を見開く、息をのむ 驚き
声が震える 緊張、悲しみ、怒りの高まり

ただし、これらは「一般的な傾向」であって、絶対のルールではありません。同じ「涙が出た」という描写でも、文脈によっては悲しみの涙ではなく、悔し涙や、安堵の涙、感動の涙であることもあります。表・しぐさそのものだけでなく、その場面の状況(何が起きた直後か)と合わせて判断することが重要です。

手がかり③:行動・セリフ

登場人物が「何をしたか」「何を言ったか」も、重要な心情の手がかりです。とくに、状況にそぐわない行動や、唐突な行動には、心情が強く表れています。たとえば、普段は物静かな人物が急に大声を出したり、逆に、いつもは饒舌な人物が急に黙り込んだりする場面には、注目すべき心情の変化が隠れています。

セリフも同様です。ただし、セリフを読むときには次の手がかり④で説明する注意点があります。

手がかり④:セリフと本心のズレに注意する

小説の心情把握で特に注意すべきなのが、セリフが必ずしも本心をそのまま表しているとは限らないという点です。人は、恥ずかしさや意地、照れくささから、本心と反対のことを言ったり、本心を隠すような素っ気ない言い方をしたりします。

たとえば、本当は助けてほしいのに「別にいい、放っておいて」と言う、本当は嬉しいのに「べつに、たいしたことじゃない」と素っ気なく答える、といった表現です。このような場面では、セリフの内容だけでなく、そのセリフを言ったときの表情・声の調子・行動が、セリフの内容と一致しているか矛盾しているかを確認します。セリフと表情・行動が矛盾している場合は、表情・行動のほうが本心に近いことが多いというのが読解の基本です。

原則:想像で補わず、本文に根拠を置く

心情把握でもっとも大切な心構えは、「自分ならこう感じるだろう」という想像や、一般論で心情を決めつけないことです。現代文の解答はすべて本文中に根拠がなければなりません。表情・しぐさ・行動・セリフのどれか(あるいは複数)を本文から具体的に指摘できて初めて、その心情読み取りは正解になります。選択肢問題で「もっともらしいが、本文に書かれていない心情」を選んでしまうのは典型的な失点パターンなので、常に「この心情は、本文のどの言葉から読み取れるか」を自分に問いかける習慣をつけましょう。

例題

例題1(基本)

問題

次の文章を読んで、後の問いに答えよ。

試合終了のホイッスルが鳴った瞬間、健太はその場に崩れ落ちるようにしゃがみ込んだ。両手で顔を覆い、しばらく肩を震わせていた。チームメイトが駆け寄って肩に手を置いても、健太は顔を上げなかった。

傍線部「両手で顔を覆い、しばらく肩を震わせていた」とあるが、このときの健太の心情として最も適当なものを、次の①~④のうちから一つ選べ。

① 試合に負けた悔しさと悲しみで、感情を抑えられなくなっている。 ② チームメイトに励まされたことがうれしくて、感激している。 ③ 試合が終わったことに安心して、力が抜けている。 ④ 自分のミスを反省し、チームメイトに謝ろうとしている。

解答・解説を見る

まず状況を整理します。「試合終了のホイッスル」「その場に崩れ落ちるように」という描写から、これは何らかの重要な試合の直後の場面だとわかります。

次に、傍線部の「両手で顔を覆い」「肩を震わせていた」という間接描写に注目します。「顔を覆う」動作は、人に涙や表情を見られたくないときに取る典型的なしぐさであり、「肩を震わせる」は、泣いている、あるいは強い感情がこみ上げている状態を表す典型的な身体描写です。

さらに、「チームメイトが駆け寄って肩に手を置いても、健太は顔を上げなかった」という後続の描写からも、健太が慰められてもすぐには立ち直れないほど強い感情に襲われていることが読み取れます。「駆け寄った」という表現からチームメイトが健太を心配している(=何か悪い結果が起きた)ことも推測できます。

これらを総合すると、「崩れ落ちる」「顔を覆う」「肩を震わせる」「顔を上げない」という一連の描写はすべて、強い悲しみや悔しさで感情を抑えきれない状態を表す間接描写だと判断できます。②は本文に「励まされてうれしい」という根拠がなく、むしろ顔を上げていないことと矛盾します。③「安心して力が抜けている」なら泣くような描写にはなりません。④「反省し謝ろうとしている」根拠は本文のどこにもありません。

答え:①

例題2(標準)

問題

次の文章を読んで、後の問いに答えよ。

「別に、大丈夫だから」 由紀はそう言うと、財布を持ってきた母の手を押しのけるようにして、自分の小さながま口から千円札を一枚取り出した。数えるふりをして、指先が小刻みに震えているのを、母に見られないようにポケットに手を入れた。

傍線部「母の手を押しのけるようにして」から読み取れる由紀の心情として最も適当なものを、次の①~④のうちから一つ選べ。

① 母に頼らず自分の力で解決したいという、素直な自立心。 ② お金を出してもらうことへの照れくささを隠そうとする、意地と気まずさの入り混じった気持ち。 ③ 母の申し出をわずらわしく感じ、母を突き放したいという冷たい気持ち。 ④ 自分のお金の少なさを母に知られたくないという、単純な恥ずかしさ。

解答・解説を見る

この問題は、セリフと行動・しぐさのズレを読み取れるかがポイントです。

まず由紀のセリフ「別に、大丈夫だから」だけを見ると、平静で、母の助けを必要としていないように見えます。しかし、そのあとの行動としぐさに注目すると、印象が大きく変わります。「母の手を押しのけるようにして」自分のがま口から出すという行動は、母に頼るのを拒む強い意志を感じさせる一方で、「数えるふりをして、指先が小刻みに震えている」「母に見られないようにポケットに手を入れた」という描写は、由紀が内心では平静ではいられず、動揺や気まずさを隠そうとしていることを示しています。

つまり、「大丈夫」というセリフは強がりであり、行動としぐさ(震える指を隠す)のほうが由紀の本心に近いと読み取れます。素っ気ない言葉と、隠しきれない動揺という組み合わせから読み取れるのは、単なる「素直な自立心」(①)でも「冷たい突き放し」(③)でもなく、「本当は動揺しているのに、それを見せたくない」という意地と気まずさが入り混じった心情です。

④は「震える指を隠す」という描写を「お金の少なさを知られたくない恥ずかしさ」だけに限定してしまっており、「母の手を押しのける」という母を頼りたくない意地の部分を説明できていません。したがって、行動・しぐさの両方の意味を過不足なく説明している②が最も適当です。

答え:②

例題3(応用)

問題

次の文章を読んで、後の問いに答えよ。

合格発表の掲示板の前で、翔太は自分の受験番号を三度数え直した。あるはずのない場所に指を這わせ、それでも見つからないとわかると、翔太は小さく笑った。「まあ、そんなもんだよな」とつぶやき、踵を返して人混みの中に歩き出した。その足取りは、来たときよりもずっと速かった。

傍線部「翔太は小さく笑った」とあるが、この「笑い」をどのように説明するのが最も適当か。次の①~④のうちから一つ選べ。

① 結果を受け入れ、次の目標に向かって前向きな気持ちになったことを表す笑い。 ② 予想していた通りの結果に安心し、緊張から解放されたことを表す笑い。 ③ 不合格というつらい現実を受け止めきれず、動揺を押し隠すための空虚な笑い。 ④ 自分の努力不足を反省し、自分自身をあざける自嘲的な笑い。

解答・解説を見る

この問題は、一見前向きに見える描写の奥にある本当の心情を、複数の手がかりを総合して読み取る応用問題です。

まず状況を確認します。「受験番号を三度数え直した」「あるはずのない場所に指を這わせ」という行動から、翔太は自分の番号が見つからない(不合格である)ことをすぐには受け入れられず、何度も確認していることがわかります。ここまでで、望んでいた結果ではなかったことがはっきりします。

次に傍線部「小さく笑った」だけを見ると、一見、結果を受け入れて前向きになったようにも読めてしまいます。しかし、ここで立ち止まらず、後続の描写と合わせて総合的に判断する必要があります。続く「『まあ、そんなもんだよな』とつぶやき」というセリフは、諦めや投げやりな響きを持つ言葉であり、心から納得しているようには読めません。さらに決定的なのが、最後の一文「その足取りは、来たときよりもずっと速かった」です。これは、その場に一刻も早く留まりたくない、感情を誰にも見られたくないという、動揺を押し隠そうとする行動として読み取れます。

これらを総合すると、「小さく笑った」のは、心からの前向きさ(①)や安心(②、そもそも望んだ結果ではないので緊張から解放される安心ではありません)ではなく、ショックな現実をとっさに受け止めきれず、平静を装うための空虚な笑いだと判断できます。④の「自嘲」は自分の努力不足への反省が本文中に描かれていないため、根拠が不足しています。「足取りが速かった」という手がかりまで使って答えを絞り込めるかが、この問題の分かれ目です。

答え:③

確認問題

問題

次の文章を読んで、後の問いに答えよ。

引っ越しの荷物がすべて運び出されたあとの部屋で、亜美はしばらく立ち尽くしていた。壁に残った、家具の跡だけがくっきりと四角く色を変えている。亜美はその跡の一つに、そっと手のひらを当てた。

傍線部「そっと手のひらを当てた」という行動から読み取れる亜美の心情を、25字程度で説明せよ。

答え

(例)この部屋で過ごした日々を名残惜しく思う気持ち。(家具の跡に触れるという行動から、住み慣れた部屋への愛着・別れを惜しむ気持ちを読み取る。)