漢文 / 句法の基礎(訓読の仕組み)
返り点と書き下し文の基本
要点整理
漢文と訓読
漢文は、古代中国の文語文(古典中国語)で書かれた文章です。漢字だけで書かれた元の文章を白文と呼びます。日本ではこの白文を、中国語の音で読むのではなく、日本語の語順・文法に読み替えて理解するという独自の方法を古くから使ってきました。これを訓読と呼びます。
訓読が必要になる最大の理由は、中国語と日本語で語順が違うことです。中国語(漢文)は英語と同じように「主語→述語→目的語」(SVO)の語順を基本とします。一方、日本語は「主語→目的語→述語」(SOV)の語順です。たとえば「読書」(書を読む)は、漢文の語順では「読む・書を」の順ですが、日本語では「書を・読む」の順になります。この語順のズレを埋めるために発明されたのが、これから学ぶ返り点という記号です。
返り点の仕組み
返り点は、漢字の左下に付ける記号で、「この字をどの順番で読むか」を指示します。代表的なものは次の3種類です(詳しい使い分けは次のトピックで扱います)。
- レ点:すぐ下の一字だけを先に読んでから、返って読む記号。1字だけの返り。
- 一二点:二字以上を隔てて返る記号。間にある字は、そのまま順番に読む。
- 上下点:一二点をまたいで、さらに大きく返る記号。
返り点が付いた字は、その場ではまだ読みません。返り点の指示に従って、まず先(下)にある字を読んでから、返り点の付いた字に戻って読みます。
なお、このサイトでは横書きの都合上、送り仮名を漢字の右に( )でカタカナで示します(教科書などの縦書きでは、文字の右下に小さく書きます)。
送り仮名
送り仮名は、漢字だけでは表せない、日本語の活用語尾や助詞・助動詞などを補うために、漢字の右下に片仮名で書き添えるものです。たとえば「読む」と読ませたい場合は、「読」の右に(ム)を、「書を」と読ませたい場合は「書」の右に(ヲ)を添えます。
送り仮名は、その漢字が文中でどんな活用形になるかによって変わります。たとえば「読まず」(打消)なら(マ)、「読めば」(仮定)なら(メ)というように、あとに続く語によって送り仮名の形が変化します。
書き下し文の4つのルール
訓読した通りの語順で、漢字仮名交じりの文に書き改めたものが書き下し文です。作るときのルールは次の4つです。
- 送り仮名は平仮名に直す。片仮名のまま書いてはいけません。
- もとの漢文で助動詞・助詞にあたる働きをしている漢字は、平仮名で書く。たとえば否定を表す「不」は「ず」と平仮名で書きます。
- 置き字は書かない。於・于・乎・而・矣・焉など、訓読で発音しない字(置き字)は、書き下し文からも省きます。
- 再読文字は、最初の読みは漢字のまま(または対応する読み方で)、2回目の読みは平仮名で書く。再読文字については次のトピックで詳しく学びます。
訓読の手順(まとめ)
- 返り点を確認し、読む順番を決める。
- 送り仮名を補いながら、一字ずつ日本語の音・訓で読んでいく。
- 助字を省き、平仮名にすべき字を平仮名に直して、書き下し文を完成させる。
例題
例題1(基本)
問題
次の文を書き下し文にせよ。
我 読(ム)レ 書(ヲ)。
解答・解説を見る
レ点は、すぐ下の一字だけを先に読んでから返る記号です。「書」の左下にレ点が付いているので、まず「書」を読んでから、「読」に返って読みます。
読む順番は「我→書→読」となります。送り仮名(ヲ)(ム)を補って読むと、「我(われ)書(しょ)を読(よ)む」となります。
書き下し文のルールに従って、送り仮名を平仮名に直すと、次のようになります。
答え:我書を読む。
例題2(標準)
問題
次の文を書き下し文にせよ。
我 学(ブ)二 漢 文(ヲ)一。
解答・解説を見る
一二点は、二字以上を隔てて返る記号です。「文」に一点、「学」に二点が付いているので、「漢」「文」をそのままの順番で先に読んでから、「学」に返って読みます。
読む順番は「我→漢→文→学」となります。送り仮名(ヲ)(ブ)を補って読むと、「我(われ)漢文(かんぶん)を学(まな)ぶ」となります。
答え:我漢文を学ぶ。
一二点では、間にある字(この例では「漢」)には返り点が付かず、そのまま普通の順番で読むことに注意しましょう。
例題3(応用)
問題
次の文を書き下し文にせよ。
我 不レ 読(マ)レ 書(ヲ)。
解答・解説を見る
この文にはレ点が2つ続いています。このようにレ点が連続する場合は、下にある字から順に、1字ずつ返っていくと考えます。
まず「書」に付いたレ点により、「書」を先に読んでから「読」に返ります。次に「読」に付いたレ点により、「読」まで読み終えたところで「不」に返ります。
結果として読む順番は「我→書→読→不」となります。
ここで注意すべきなのは送り仮名です。「読」のあとに打消の「不」が続くので、「読む」は未然形の「読ま」の形になり、送り仮名は(マ)になります(基本形の「読む」の(ム)ではありません)。
最後に、書き下し文のルール2「助動詞・助詞にあたる漢字は平仮名で書く」に従い、否定を表す「不」は「ず」と平仮名に直します。
答え:我書を読まず。
このように、返り点だけでなく、あとに続く語に合わせて送り仮名(活用形)が変わることにも注意が必要です。否定形については、次の単元で詳しく学びます。
確認問題
問題
次の文を書き下し文にせよ。
人 帰(ル)レ 家(ニ)。
答え
人家に帰る。