古典(古文) / 助動詞

推量の助動詞(1)む・むず・べし

要点整理

このページでは、代表的な推量の助動詞「む(ん)」「むず」「べし」を学びます。特に「べし」は6つもの意味を持つ多義語で、入試でも頻出の識別ポイントです。

「む(ん)」

「む」は未然形に接続し、四段活用の一部の形を借りたような活用(終止形・連体形・已然形しか使わない)をします。

未然形 連用形 終止形 連体形 已然形 命令形

「む」は表記上「ん」と書かれることも多く(仮名遣いの違いだけで意味は同じ)、次の5つの意味を持ちます。

  1. 推量(~だろう):主語が三人称(自分以外の人・もの)のときに多い。
  2. 意志(~しよう):主語が一人称(自分)のときに多い。
  3. 勧誘・適当(しませんか、するのがよい):主語が二人称のときに多い。
  4. 仮定(としたら):「もしば」のような仮定表現を伴うことが多い。
  5. 婉曲(~ような):連体形で体言(名詞)を修飾するときに多い。

意味を判定する最大の手がかりは、主語の人称です。「一人称+む→意志」「二人称+む→勧誘・適当」「三人称+む→推量」という対応がおおよそ成り立ちます。ただし主語が省略されていることが多い古文では、文脈から人称を補って考える必要があります(この技術はkoten-dokkai単元で詳しく学びます)。

「むず」

「むず」は「む」に「とす」が結びついてできた語で、未然形に接続し、意味は「む」とほぼ同じ(推量・意志)ですが、やや語気が強いニュアンスを持ちます。会話文に多く登場します。活用はサ変と同じパターン(サ変型)で、使われるのは終止形・連体形・已然形のみです。

未然形 連用形 終止形 連体形 已然形 命令形
むず むずる むずれ

「べし」

「べし」は終止形に接続します(ただし、ラ変・ラ変型に活用する語には連体形に接続する、という例外があります)。活用は形容詞のク活用と同じパターン(形容詞型)で、本活用と補助活用(カリ活用)の両方を持ちます。

未然形 連用形 終止形 連体形 已然形 命令形
本活用 (べく) べく べし べき べけれ
補助活用 べから べかり べかる

「べし」は非常に多くの意味を持つ助動詞で、入試でも識別問題として頻出します。代表的な意味は次の6つです。

  1. 推量(~だろう)
  2. 意志(しよう、するつもりだ)
  3. 当然・義務(はずだ、ねばならない)
  4. 可能(~できる)
  5. 命令(~せよ)
  6. 適当・勧誘(~がよい)

「む」と同じく、主語の人称が意味判定の手がかりになります。一人称の主語なら意志、二人称の主語なら命令・当然、三人称の主語なら推量になりやすい傾向があります。また、可能の意味は「べくもあらず(できるはずもない)」のように、打消の語を伴って使われることが多いという特徴もあります。

例題

例題1(基本)

問題

次の傍線部「む」の意味を答えなさい。

「われ、都へ上ら。」(話し手自身のことについて述べている場面)

解答・解説を見る

主語は「われ(私)」という一人称です。一人称の主語に「む」が付く場合は、意志(~しよう)の意味になることが多いというルールに当てはめます。

答え:意志(私は都へ上ろう)

例題2(標準)

問題

次の傍線部「べし」の意味を、文脈から判断して答えなさい。

「この薬を飲めば、必ず病は癒ゆべし。」

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主語は「病」で三人称的な扱いです。三人称の主語に「べし」が付く場合、推量の意味になりやすいのが原則ですが、この文には「必ず」という強い確信を表す副詞があります。

「べし」は推量のほかにも、道理として当然そうなる、という当然の意味を持ちます。「必ず~べし」のように、強い確信・道理を述べる文脈では、単なる推量よりも当然の意味で読むほうが自然です。

答え:当然(必ず病が治るはずだ)

このように、「べし」の意味は主語の人称だけでなく、副詞(必ず・きっとなど)や文脈全体から総合的に判断する必要があります。

例題3(応用)

問題

「~べくもあらず」という表現に含まれる「べし」の意味を、この表現の構造から説明しなさい。

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「べくもあらず」は、「べし」の連用形「べく」に係助詞「も」が付き、ラ変動詞「あり」の未然形「あら」に打消の助動詞「ず」が続いた形です。全体で「できるはずもない」「できそうにもない」という意味になります。

「べし」が持つ6つの意味のうち、下に打消の語(ここでは「ず」)を伴って「~できない」という意味になるのは可能の用法です。「べくもあらず」は、この可能の「べし」が、打消の表現と組み合わさって定型化した言い回しだと考えられます。

答え:可能。「べくもあらず」全体で「~できるはずもない」という意味になり、下に打消を伴う可能の用法の代表的な形である。

確認問題

問題

助動詞「べし」の連体形の、本活用と補助活用(カリ活用)の2つの形を答えなさい。

答え

本活用:べき 補助活用:べかる