漢文 / 重要句法
受身形
要点整理
見・被を使う受身
見または被を、動詞の直前に置くことで、「〜される」という受身の意味を表すことができます。見・被は、それ自体が「見る」「被る(こうむる)」という元の動詞の意味ではなく、受身の助動詞のような働きをしていることに注意してください。
読み方は、動詞を未然形にしたあと、見・被を「る」「らる」と読みます。たとえば「見レ笑」は、「笑」を先に読んでから「見」に返り、「笑はる」(笑われる)となります。
「為A所B」の構文
為A所Bは、「AのBする所と為る」と読み、「Aによって〜される」という受身を表す、代表的な構文です。
- 為:「〜となる」
- A:動作をする側(受身の主体からみると「〜によって」にあたる部分)
- 所B:「Bする所」、つまり「Bすること」
たとえば「為二人所一レ知。」は、「人の知る所と為る。」(人に知られる)となります。この構文全体で「Aによって、Bされる」という受身の意味になります。
於(于・乎)を使う受身
於・于・乎は、本来は「〜に」「〜より」といった、場所や比較の対象を示す前置詞ですが、動詞のあとに置かれて、その動詞の**動作主(〜によって)**を示すときは、受身の意味を表します。
この受身は、見・被や為所のように、はっきりとした受身の助動詞・構文があるわけではないため、文脈と動詞の意味から判断する必要があります。主語が動作をする側ではなく、動作を受ける側になっていないかを、文の意味から確認することが見分けるコツです。
なお、「於」は前のトピックまでで見てきた「置き字」の仲間です。それ自体には返り点が付かず、声に出しても読みません。動詞に付いたレ点は、この「於」を飛び越えて、そのすぐあとの語に返る、という指示になります。「於」が本来持っていた「〜によって」という意味は、その語に補う送り仮名「に」として表れます。
『孟子』にある、次の対になった一文で確認してみましょう。
労力者治レ於人、労心者治レ人。
前半の「治レ於人」は、「人に治めらる」(他人によって治められる)という受身です。「於」があることで、「治める」対象ではなく、「治められる」側であることが分かります。後半の「治レ人」は、「於」がなく、「人を治む」という、ふつうの**能動(受身でない)**の文です。同じ「治」という動詞でも、「於」の有無によって、能動・受身が入れ替わることが分かります。
例題
例題1(基本)
問題
次の文を書き下し文にし、現代語訳せよ。
彼 見レ 笑(ハ)。
解答・解説を見る
「笑」にレ点が付いているので、「笑」を先に読んでから「見」に返ります。「見」は受身の助動詞として「る」と読みます。
答え:彼笑はる。/ 彼は笑われる。
例題2(標準)
問題
次の文を書き下し文にし、現代語訳せよ。
労力者 治レ 於 人、労心者 治レ 人。
解答・解説を見る
前半から考えます。「於」は置き字なので、それ自体には返り点が付かず、読みません。「治」に付いたレ点は、この「於」を飛び越えて、すぐあとの「人」に返る、という指示です。「人」に、「於」が本来持っていた意味を表す送り仮名「に」を補って「人に」と読み、それから「治」に返って「治めらる」(受身)とします。
読む順は「労力者→人→治」で、「労力する者は、人に治めらる。」となります。
後半は「於」がなく、「人」にレ点が付いているだけなので、「人を治む」という、ふつうの能動の文です。
答え:労力する者は人に治めらる、労心する者は人を治む。/ 力を使って働く者は他人に治められ、頭を使って働く者は他人を治める。
これは『孟子』にある有名な言葉で、肉体労働をする者と、頭脳労働(政治など)をする者の関係を対比的に述べたものです。「於」があるかないかだけで、能動と受身が入れ替わっている点に注目してください。
例題3(応用)
問題
次の文を書き下し文にし、現代語訳せよ。
先 即 制レ 人、後 則 為二 人 所一レ 制。
解答・解説を見る
前半「先即制レ人」は、「人」にレ点が付いているので、「人を制す」という、ふつうの能動の文です。「先んずれば則ち人を制し」となります。
後半「為二人所一レ制」を考えます。「所」に一とレが重ねて付いているので、まずレ点の働きで「制」を先に読んでから「所」に返り(制する所)、この「所」を読み終えた時点で一二点の「一」の役割も果たすので、続けて「為」(二点)に返ります。「人」はそのままの位置で読みます。
読む順は「後→則→人→制→所→為」で、「後るれば則ち人の制する所と為る。」となります。
答え:先んずれば則ち人を制し、後るれば則ち人の制する所と為る。/ 先に行動すれば人を制することができ、後れれば人に制されてしまう。
これは『史記』項羽本紀にある言葉で、「先手を取ることの大切さ」を、能動の「制レ人」と受身の「為二人所一レ制」を対比させて述べたものです。
確認問題
問題
次の文を書き下し文にし、現代語訳せよ。
為二 人 所一レ 欺(カル)。
答え
人の欺く所と為る。/ 人にだまされる。