漢文 / 句法の基礎(訓読の仕組み)
レ点・一二点・上下点の使い分け
要点整理
3種類の返り点の使い分け
前のトピックで、返り点には大きく分けてレ点・一二点・上下点の3種類があることを学びました。この3つは、何字を隔てて返るかによって使い分けます。
- レ点:すぐ下の一字だけを先に読んでから、1字だけ返るとき。
- 一二点:二字以上を隔てて返るとき。ただし、間にある字自体には返り点が付いていない(間の字は普通の順番で読める)場合に限ります。
- 上下点:一二点(またはあとで説明する一二三点)を使った範囲を、まるごと囲むようにして、さらに大きく返るとき。囲む範囲がもっと大きい場合は、上・中・下の3段階を使うこともあります。
一二点の中で、返る範囲が3か所以上必要な場合は、一二点の代わりに一二三点(一・二・三)を使うこともあります。さらに大きな入れ子が必要な、ごくまれなケースでは甲乙点が使われることもありますが、高校の学習範囲ではレ点・一二点(一二三点)・上下点を押さえておけば十分です。
一二点の読み方の確認
一二点は、「一」の付いた字までを普通の順番で先に読み、それから「二」の付いた字に返って読みます。「一」と「二」の間にある字には返り点が付かず、そのまま順番に読みます。
登二泰山一。
この例では「山」に一点、「登」に二点が付いています。「泰」「山」を先に読んでから、「登」に返ります。読む順は「泰→山→登」で、書き下し文は「泰山に登る。」となります。
複数の返り点が独立して同じ文にある場合
一つの文の中に、レ点と一二点のように、種類の違う返り点が複数、それぞれ独立して現れることがあります。この場合は、それぞれの返り点を、その場その場で個別に処理していけば大丈夫です。
『論語』の有名な一節で確認してみましょう。
有レ朋自二遠方一来。
この文には、「有」に付いたレ点と、「自」「遠方」に付いた一二点の、2組の返り点が独立して含まれています。
まず「有」のレ点により、「朋」を先に読んでから「有」に返ります(朋有り)。続いて「自」の二点と「方」の一点により、「遠」「方」を先に読んでから「自」に返ります(遠方より)。最後に「来」をそのまま読みます。
読む順は「朋→有→遠→方→自→来」となり、書き下し文は「朋有り、遠方より来たる。」(友人が遠方からやって来る)となります。このように、返り点どうしが重なっていなければ、1つの文の中にいくつあっても、それぞれ順番に処理すればよいのです。
一二点と上下点が組み合わさる場合
一二点をすでに使っている範囲を、さらに外側から大きく返る必要があるときは、一二点をもう一段使うのではなく、上下点に切り替えます。「矛盾」という故事成語のもとになった、『韓非子』の有名な一文で確認してみましょう。
楚人有下鬻レ盾与矛一者上。
この文は、次の3段階でできています。
- 「盾」を先に読んでから「鬻」に返る(レ点、盾を鬻ぎ)。
- 「与」「矛」をそのまま読む(与=と、矛)。
- ここまでの「鬻盾与矛」の範囲全体を、外側から囲むように「者」から「有」へ大きく返る(上下点)。
読む順は「楚→人→盾→鬻→与→矛→者→有」となり、書き下し文は「楚人に、盾と矛とを鬻ぐ者有り。」(楚の国の人で、盾と矛を売る者がいた)となります。
ここで大切なのは、「鬻」から「盾与矛」への返りには、すでにレ点が使われているという点です。もしこの範囲を囲む外側の返りにも一二点を使ってしまうと、どちらの「一」「二」がどちらの組なのか区別できなくなります。そこで、内側とかぶらない上下点を使うのです。
発展:一レ点・上レ点(重ねて付く返り点)
まれに、一二点の「一」(または上下点の「上」)が付くはずの字に、レ点も同時に付くことがあります。これは、一二点の枠の中で、さらにもう一度、直前の1字だけへの返りが必要な場合に起こります。表記としては「一レ」「上レ」のように、2つの記号が重ねて印刷されます。
読み方の考え方は、まずレ点の要領で1字返り、その結果をもって一二点(上下点)の「一」(「上」)の役割も果たす、というものです。性善説のもとになった、『孟子』の一文で確認してみましょう。
人皆有下不二忍一レ人之心上。
まず内側を見ます。「忍」に「一レ」が重ねて付いています。レ点の働きにより、「人」を先に読んでから「忍」に返ります。この「忍」を読み終えた時点で、一二点の「一」の役割も果たされたことになるので、続けて「不」(二点)に返ります。「人に忍びざる」となります。
続いて「之」「心」をそのままの順で読みます。「人に忍びざるの心」となります。ここまでの「不忍人之心」全体(すでに一二点を含む範囲)を、外側から上下点で「有」に返します。
読む順は「人→皆→人→忍→不→之→心→有」となり、書き下し文は「人皆、人に忍びざるの心有り。」(人は誰でも、他人の苦しみを見過ごせない心を持っている)となります。
この一レ点・上レ点は、高校の教科書でもときどき登場する程度の発展的な知識です。仕組みさえ理解しておけば、初めて見る文でも慌てず対応できます。
例題
例題1(基本)
問題
次の①〜③の返り点は、それぞれレ点・一二点・上下点のどれか。理由もあわせて答えよ。
① 望レ月。 ② 求二仁 心一。 ③ 有下 悪レ人 者上。
解答・解説を見る
それぞれ、何字を隔てて返っているかに注目します。
① 「望」から「月」への返りは、直下の1字だけの返りです。よってレ点です。
② 「求」から「心」への返りは、間に「仁」を挟んだ2字分の返りで、「仁」自体には返り点が付いていません。よって一二点です。
③ 「有」から「者」への返りは、その内側にすでに「悪」から「人」へのレ点による返りを含んでいます。すでにレ点が使われている範囲を外側から囲むので、一二点ではなく上下点です。
例題2(標準)
問題
次の文を書き下し文にせよ。
有レ朋自二遠方一来。
解答・解説を見る
この文には、独立した2組の返り点があります。
まず「有」のレ点です。すぐ下の「朋」を先に読んでから、「有」に返ります。「朋有り」となります。
次に「自」と「遠方」の一二点です。「遠」「方」をそのまま順に読んでから、「自」に返ります。「自」は「より」と読みます。「遠方より」となります。
最後に「来」をそのまま読みます。「来たる」となります。
全体の読む順は「朋→有→遠→方→自→来」です。
答え:朋有り、遠方より来たる。
「朋(とも)有り、遠方より来たる」は、友人が遠くから訪ねて来てくれることの喜びを述べた、『論語』冒頭近くの有名な一節です。
例題3(応用)
問題
次の文を書き下し文にせよ。
楚人有下鬻レ盾与矛一者上。
解答・解説を見る
まず内側のレ点を処理します。「盾」を先に読んでから「鬻」に返ります。「盾を鬻ぎ」となります。続けて「与」「矛」をそのままの順で読みます。「与」は「と」、「矛」はそのまま「矛」です。「盾と矛とを鬻ぎ」となります。
ここまでの「鬻盾与矛」に続けて「者」を読み、この「鬻盾与矛者」全体(すでにレ点を含む範囲)を、外側から上下点で「有」に返します。
全体の読む順は「楚→人→盾→鬻→与→矛→者→有」です。
答え:楚人に、盾と矛とを鬻ぐ者有り。
これは、「どんな盾も防げない矛」と「どんな矛も防ぐ盾」を同時に売っていた楚の国の商人の話の書き出しで、「矛盾」という言葉の由来になった、『韓非子』の一節です。一二点(レ点)と上下点が、内側・外側の2段階で使われている典型的な複合パターンです。
確認問題
問題
次の文を書き下し文にせよ。
苛政猛レ 於 虎 也。
答え
苛政は虎よりも猛なり。