文学史 / 古典文学史

中世文学(鎌倉・室町時代:平家物語・徒然草・新古今和歌集)

要点整理

中世文学とは何か

中世文学は、鎌倉時代(1185年ごろ〜1333年)と室町時代(1336年〜1573年)にまたがる文学を指します。この時代の最大の特徴は、政治の実権が貴族から武士へと移り、源平の争乱や南北朝の動乱、応仁の乱など、戦乱が繰り返されたことです。

このような社会の激しい変化を背景に、中世文学全体を貫く精神として「無常観」が挙げられます。これは、すべてのものは絶えず移り変わり、栄えたものもいつかは必ず衰える、という仏教的な世界観です。中古文学が貴族の優雅な美意識(もののあはれ・をかし)を中心としていたのに対し、中世文学は、この無常観という、よりシビアな時代精神を色濃く反映している点に大きな違いがあります。

軍記物語

武士の時代を象徴するジャンルが軍記物語です。合戦の様子や武将たちの生きざまを、力強い文体で描きます。

その代表が**『平家物語』です。平家一門の栄華と没落を描いたこの作品は、作者不詳ですが、盲目の僧である琵琶法師が、琵琶を弾きながら独特の節をつけて語り伝える「平曲」として、文字を読めない人々の間にも広く親しまれました。文体は、和文(かな中心)と漢文訓読調を混ぜ合わせた和漢混淆文**で、力強く格調高い調子を生み出しています。冒頭の「祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり。娑羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらはす」という一節は、中世文学の無常観を象徴する言葉として特に有名です。

『平家物語』に続いて、南北朝の動乱を描いた**『太平記』**も、代表的な軍記物語として押さえておきましょう。

随筆文学と三大随筆

中世を代表する随筆が2つあります。一つは、鴨長明による**『方丈記』**です。京の都で相次いだ地震・火事・飢饉・辻風などの災厄を記録しながら、この世の無常を説いたこの作品は、無常観を最も直接的に表現した文学として知られます。「ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず」という冒頭は、川の流れに世の無常を重ねた、象徴的な一節です。

もう一つは、**兼好法師(吉田兼好、卜部兼好)による『徒然草』**です。「つれづれなるままに、日暮らし、硯にむかひて、心にうつりゆくよしなしごとを、そこはかとなく書きつくれば」という書き出しで知られるこの作品は、無常観を土台にしながらも、自然観察や人間観察、処世訓など、幅広い話題を鋭い観察眼で自由につづった、随筆文学の完成形とされています。

平安時代の『枕草子』と、この『方丈記』『徒然草』の3作品を合わせて「三大随筆」と呼びます。3作品の違いを整理すると、次のようになります。

作品 成立時代 作者 中心となる美意識・思想
枕草子 平安時代(中古) 清少納言 をかし
方丈記 鎌倉時代(中世) 鴨長明 無常観
徒然草 鎌倉時代(中世) 兼好法師 無常観+幅広い観察・処世訓

和歌と『新古今和歌集』

中世を代表する勅撰和歌集が**『新古今和歌集』**です。後鳥羽院(後鳥羽上皇)の命により、藤原定家らが撰者となって編纂されました。平安時代の『古今和歌集』から数えて8番目の勅撰和歌集にあたることから、この8つの和歌集を合わせて「八代集」と呼びます。

『新古今和歌集』の歌風は、「余情妖艶」と評され、古い有名な和歌(本歌)の語句や発想を巧みに取り入れて新しい歌を詠む「本歌取り」の技法が高度に発達したことでも知られます。単純に言葉を模倣するのではなく、本歌が持つ情景やイメージを重ね合わせることで、短い三十一文字により奥行きのある余韻を生み出す技巧です。このほか、出家した武士でありながら旅を重ねて自然や人生を詠んだ歌人**西行(さいぎょう)**の私家集『山家集』も、この時代の和歌を代表する作品として重要です。

説話文学

事実か伝聞かを問わず、興味深い話・教訓的な話を短くまとめた文学を説話文学と呼びます。代表作が**『今昔物語集』で、平安時代末期の成立とする説が有力ですが、中世文学と並べて扱われることも多い作品です。内容は、天竺(インド)・震旦(中国)・本朝(日本)の3部構成になっており、「今は昔」という決まった書き出しで始まる説話が1000話以上収められています。鎌倉時代に入ると、この流れを受け継ぐ『宇治拾遺物語』『十訓抄』**なども成立しました。

中世文学のまとめ

中世文学は、貴族の美意識から武士の世界の無常観へという転換を軸に、①軍記物語(平家物語)、②随筆(方丈記・徒然草)、③和歌(新古今和歌集)、④説話(今昔物語集)という4つのジャンルで整理すると理解しやすくなります。いずれのジャンルにも、多かれ少なかれ「無常観」という中世特有の時代精神が反映されていることを意識しておきましょう。

例題

例題1(基本)

問題

「祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり」という冒頭で知られる軍記物語の作品名を答えよ。また、この作品の文体上の特徴を答えよ。

解答・解説を見る

この有名な冒頭を持つ作品は**『平家物語』**です。平家一門の栄華と没落を描いた軍記物語で、作者は不詳とされています。

文体上の特徴は、和文(かな中心の柔らかい文体)と、漢文訓読調(力強く格調高い文体)を混ぜ合わせた「和漢混淆文」である点です。この文体が、合戦の緊迫感や、栄華から没落へという劇的な展開を語るのに適した、力強い調子を生み出しています。また、盲目の僧である琵琶法師によって「平曲」として語り広められたことも、あわせて押さえておきましょう。

答え:平家物語。文体は和漢混淆文。

例題2(標準)

問題

三大随筆のうち、鎌倉時代に成立した『方丈記』と『徒然草』について、それぞれの作者と、内容上の違いを説明せよ。

解答・解説を見る

『方丈記』の作者は鴨長明です。この作品は、京で相次いだ地震・大火・飢饉・辻風などの災厄を実際に記録しながら、この世のはかなさ、無常を説くことに内容が集中しています。「ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず」という冒頭が象徴するように、無常観そのものをテーマとした作品といえます。

『徒然草』の作者は**兼好法師(吉田兼好)**です。この作品も無常観を根底に持ってはいますが、内容はそれだけにとどまらず、自然の美しさ、人間関係の機微、処世の心得など、非常に幅広い話題を鋭い観察眼で自由につづっています。テーマを一つに絞った『方丈記』に対し、『徒然草』は多様な話題を扱う随筆集としての性格が強い、という違いがあります。

答え:方丈記の作者は鴨長明で、無常観そのものを主題とする。徒然草の作者は兼好法師で、無常観を根底に持ちながらも自然観察・人間観察・処世訓など幅広い話題を自由に扱う。

例題3(応用)

問題

次の説明にあてはまる作品名を答え、判断の根拠となった特徴を本文中の語句を用いて説明せよ。

「後鳥羽院の命により編纂された勅撰和歌集で、平安時代の古今和歌集から数えて8番目にあたる。古い和歌の語句や発想を取り入れて新しい歌を詠む技法が高度に発達したことで知られる。」

解答・解説を見る

「後鳥羽院の命」「古今和歌集から数えて8番目」という記述から、この作品が勅撰和歌集であり、かつ八代集の最後に位置する作品であることがわかります。八代集の最後にあたるのは**『新古今和歌集』**です。

また「古い和歌の語句や発想を取り入れて新しい歌を詠む技法」という説明は、まさに「本歌取り」の定義そのものです。本歌取りが高度に発達したのは、藤原定家らが撰者となった『新古今和歌集』の時代であり、この一致からも作品を特定できます。

答え:新古今和歌集。「後鳥羽院の命による八代集最後の勅撰和歌集」という点と、「本歌取りの技法が高度に発達した」という記述が、新古今和歌集の特徴と一致する。

確認問題

問題

『枕草子』『方丈記』『徒然草』の3作品を合わせて何と呼ぶか答えよ。

答え

三大随筆