古典(古文) / 古文読解
和歌の修辞(枕詞・掛詞・縁語・序詞)
要点整理
枕詞(まくらことば)
枕詞は、特定の語の前に置かれ、その語を修飾したり、語調を整えたりする、多くは5音の言葉です。導く語(かかる語)がほぼ決まっており、基本的に現代語には訳しません。和歌を読むときに枕詞を見つけたら、「これは訳さなくてよい飾りの言葉だ」といったん脇に置いて、その次の語に注目しましょう。
| 枕詞 | 導く語 |
|---|---|
| あしひきの | 山 |
| ひさかたの | 光・天・空・月・日 |
| たらちねの | 母(親) |
| あをによし | 奈良 |
| くさまくら | 旅 |
| しろたへの | 衣・雪・雲・袖 |
| ちはやぶる | 神 |
| ぬばたまの | 黒・夜・髪 |
| あかねさす | 日・昼・紫 |
序詞(じょことば)
序詞は、枕詞と同じように特定の語を導き出す表現ですが、枕詞と違って音数が定まっておらず、比喩や情景描写を使って、より自由に語を導きます。枕詞は訳さないのが原則ですが、序詞は多くの場合、それ自体に情景としての意味があるため、現代語訳の対象になります。
たとえば「あしひきの山鳥の尾のしだり尾の長々し夜をひとりかも寝む」(百人一首、柿本人麻呂)では、「あしひきの」は「山」にかかる枕詞ですが、「山鳥の尾のしだり尾の」という部分全体は「長々し(長い)」を導く序詞です。山鳥の尾が長く垂れ下がっている様子を描写することで、「長い夜」のイメージを重ねており、この序詞部分は「山鳥の尾のように長々と垂れ下がった」という意味を持つ、現代語訳すべき表現です。
掛詞(かけことば)
掛詞は、一つの音(仮名)に、同音異義語を利用して二つ以上の意味を持たせる技法です。限られた音数(五七五七七)の中に、複数の意味を重ねることができる、和歌ならではの高度な技巧です。
| 掛詞 | 掛けられている2つの意味 |
|---|---|
| まつ | 松 / 待つ |
| ながめ | 眺め(物思いにふけること) / 長雨 |
| あき | 秋 / 飽き |
| ふる | 降る / 経る(年月が過ぎる)・古る |
| よ | 夜 / 世 / 節(よ、竹などの節) |
| かり | 仮 / 雁 |
| うき | 憂き(つらい) / 浮き |
縁語(えんご)
縁語は、和歌の中で、ある語(多くは掛詞になっている語)と意味の上でつながりのある語を複数ちりばめ、表現全体に奥行きや統一感を持たせる技法です。掛詞と組み合わさって使われることが多く、一つの和歌の中に「関連する言葉のグループ」が意図的に配置されます。
実際の和歌で確認する
小野小町の有名な和歌(『古今和歌集』)を見てみましょう。
花の色は移りにけりないたづらにわが身世にふるながめせしまに
この和歌には、2つの掛詞が使われています。
- 「ふる」:「(雨が)降る」と「(年月が)経る」の掛詞。
- 「ながめ」:「眺め(物思いにふけってぼんやり過ごすこと)」と「長雨」の掛詞。
表面的な意味は「桜の花の色は、むなしく降り続く長雨の間にすっかり色あせてしまった」という情景ですが、同時に「私自身の容色も、もの思いに沈んで過ごしているうちに、むなしく衰えてしまった」という、自分自身の心情が二重写しになっています。掛詞によって、自然の情景と人の心情という2つの内容が、一つの歌の中に同時に詠み込まれているのがこの歌の魅力です。
もう一つ、在原業平の和歌(『伊勢物語』東下りの段)も見ておきましょう。
からころも きつつなれにし つましあれば はるばるきぬる 旅をしぞ思ふ
この歌は、各句の頭の音をつなげると「か・き・つ・は・た」、つまり「かきつばた」(花の名前)になるように詠まれた**折句(おりく)**という技巧が使われています。「唐衣(からころも)」は「着る」を導く枕詞的な言葉としても機能し、「きつつ(着つつ)なれにし(慣れ親しんだ)つま(妻、または褄=衣の裾)」のように、衣に関する語(着る・馴れ・褄)が縁語的に散りばめられている点にも注目しましょう。
例題
例題1(基本)
問題
「あしひきの山鳥の尾のしだり尾の長々し夜をひとりかも寝む」の歌について、①枕詞はどれで何を導いているか、②序詞にあたる部分はどこかを答えよ。
解答・解説を見る
①「あしひきの」は「山」を導く枕詞です。基本的に現代語訳しません。
②「山鳥の尾のしだり尾の」の部分が、「長々し」を導く序詞です。山鳥の長く垂れ下がった尾のイメージを使って、「長い」という言葉を情景として導いています。
答え:①あしひきの→山/②山鳥の尾のしだり尾の(「長々し」を導く序詞)
例題2(標準)
問題
小野小町の「花の色は移りにけりないたづらにわが身世にふるながめせしまに」について、①「ふる」に掛けられている2つの意味、②「ながめ」に掛けられている2つの意味を答え、③この歌が桜の情景と同時に何を詠んでいるかを説明せよ。
解答・解説を見る
①「ふる」には「(雨が)降る」と「(年月が)経る」の2つの意味が掛けられています。 ②「ながめ」には「眺め(もの思いにふけって過ごすこと)」と「長雨」の2つの意味が掛けられています。 ③表面的には「桜の花の色が、むなしく降り続く長雨の間に色あせてしまった」という自然の情景を詠んでいますが、掛詞によって同時に「自分自身の美しさも、もの思いに沈んで過ごしているうちに、むなしく衰えてしまった」という、作者自身の心情も重ねて詠まれています。
答え:①降る/経る、②眺め/長雨、③桜の花が色あせていく情景と同時に、もの思いに過ごすうちに自分の容色も衰えてしまったという心情を詠んでいる
例題3(応用)
問題
在原業平の「からころも きつつなれにし つましあれば はるばるきぬる 旅をしぞ思ふ」について、①この歌に使われている特殊な技巧の名称と、その仕組みを説明せよ。②「なれ」「つま」「はる」に見られる、衣に関連する語の技法を何と呼ぶか答えよ。
解答・解説を見る
①各句の頭の一音ずつをつなげると「か・き・つ・は・た」となり、花の名前「かきつばた」が読み込まれています。このように、各句の頭に決められた文字を一音ずつ隠して詠み込む技巧を折句と呼びます。
②「なれ(馴れ/萎れ)」「つま(妻/褄)」「はる(張る)」など、「からころも(唐衣)」に縁のある、衣類にまつわる語が意図的に散りばめられています。これは縁語の技法です。掛詞によって一語に複数の意味を重ねつつ、その周囲に関連する語を配置することで、歌全体の統一感と余韻を生み出しています。
答え:①折句(各句の頭の音をつなげると「かきつばた」になる)/②縁語
確認問題
問題
「秋の田のかりほの庵の苫をあらみわが衣手は露にぬれつつ」という歌に対し、別の歌で「あき」という語が使われていた場合、この語に掛けられることが多い2つの意味を答えよ。
答え
秋 / 飽き