現代文 / 頻出テーマ・キーワード
小説頻出テーマと近代・現代作家の傾向
要点整理
入試小説の出典にはどんな文章が選ばれやすいか
入試現代文の小説問題は、一冊の長編小説や短編集の中から、ある一場面(数千字程度)が抜き出されて出題されるのが一般的です。出題者は、限られた文字数の中で、登場人物の心情の動きを的確に読み取れるかどうかを試したいと考えているため、選ばれる文章にはいくつかの傾向があります。派手な事件や複雑な人間関係が展開する場面よりも、日常の中の、ささやかだが心情の動きが読み取りやすい場面が選ばれやすい、という点をまず押さえておきましょう。
その上で、扱われる題材(テーマ)にも、繰り返し出題される定番のパターンがあります。
頻出テーマ①:成長
もっとも頻出するのが、主人公がある出来事をきっかけに精神的に成長していく、成長小説(通過儀礼を描いた小説)というテーマです。部活動での挫折、受験、初めての失敗や後悔といった、高校生にとって身近な出来事を通じて、主人公が新しい考え方や強さを身につけていく過程が描かれます。このテーマの文章では、「成長する前の未熟な考え方」と「成長した後の考え方」を対比させて読むことが、心情変化を追う上で重要になります。
頻出テーマ②:喪失
死別、別れ、失われた過去や関係への郷愁を扱う喪失というテーマも非常によく出題されます。家族や親しい人との死別、引っ越しや卒業による人間関係の変化、幼少期の思い出との決別などが典型的な題材です。喪失をテーマにした文章では、失われたものへの悲しみだけでなく、それを乗り越えて前を向こうとする心の動き、あるいは失ったものの大切さに改めて気づく過程が描かれることが多く、心情の変化(前のトピックで学んだ3点セット)を丁寧に追う必要があります。
頻出テーマ③:家族
親子・きょうだいの関係の中で生まれる葛藤と、それを乗り越えて生まれる理解や和解を描く家族というテーマも定番です。親の期待と自分の望みとのずれ、きょうだい間の複雑な感情、家族の病気や別居といった変化に、主人公がどう向き合っていくかが描かれます。家族というテーマでは、表面的には対立していても、根底には互いを思う気持ちがある、という構図がよく見られるため、セリフと本心のズレ(手がかり④、既習)に特に注意が必要です。
頻出テーマ④:他者との関係(友情・対人関係)
友人関係や、価値観の異なる相手との出会いを通じて、自分自身のあり方を見つめ直す他者との関係というテーマも頻出です。すれ違いや誤解が生じ、それを乗り越えて理解し合う過程や、逆に理解し合えないまま関係が変化していく過程が描かれます。前のトピックで学んだ「他者論」(自己は他者との関係の中で成立する、他者には理解しきれない部分がある)という評論文の頻出テーマが、小説の題材としても形を変えて登場すると考えると理解しやすいでしょう。
頻出テーマ⑤:老い・死と向き合う
高齢の登場人物の視点や、身近な人の看取りを通じて、老いや死というテーマに向き合う小説も、近年の入試で取り上げられることが増えています。若い主人公が、高齢者との関わりを通じて、生と死、時間の流れについて考えを深めていく、という構成がよく見られます。
出典に選ばれやすい作家の大まかな傾向
入試小説の出典は、著作権や読みやすさの観点から、近代(明治昭和戦前)の文豪と、現代(戦後平成・令和)の作家の両方から選ばれます。近代の作品では、夏目漱石・森鷗外・志賀直哉・芥川龍之介・太宰治といった、文学史上重要な作家の作品が、心理描写の緻密さゆえに好んで取り上げられます。現代の作品では、家族や日常生活の機微を丁寧に描く作風の作家(たとえば、家族や成長をテーマにすることの多い重松清、繊細な心理描写で知られる江國香織や小川洋子など)の作品が、入試の出典として選ばれる傾向があります。
ただし、こうした「頻出作家」の傾向は年によって変動しますし、作家名や作品名を覚えることが直接得点につながるわけではありません。大切なのは、どの作家の作品であっても、これまで学んだ心情把握・心情変化・情景描写・表現技法の読み方を一貫して使えるということです。作家や作品についての知識は、あくまで文章全体の雰囲気をつかむ補助として活用しましょう。
例題
例題1(基本)
問題
次のあらすじで示される小説の題材は、本文で学んだ頻出テーマのうち、どれに最も近いか。後の①~④のうちから一つ選べ。
陸上部を引退したばかりの主人公は、思うような結果を出せなかった3年間を振り返り、悔しさを抱えている。ある日、後輩から「先輩の走る姿に憧れていた」と告げられたことをきっかけに、結果だけがすべてではなかったのだと気づき、次の一歩を踏み出していく。
① 喪失 ② 成長 ③ 家族 ④ 老い・死と向き合う
解答・解説を見る
あらすじを整理すると、「思うような結果を出せなかった悔しさ」という未熟な状態から、「後輩の言葉をきっかけに、結果だけがすべてではないと気づき、次の一歩を踏み出す」という、精神的な変化・前進が描かれています。これは、ある出来事をきっかけに、それまでの考え方を乗り越えて一歩成長していくという、成長というテーマの典型的な構造です。
①「喪失」は、何かを失うことに焦点を当てたテーマですが、このあらすじでは何かを失ったことよりも、気づきによる前進が中心になっており該当しません。③「家族」、④「老い・死と向き合う」も、あらすじの内容(部活動の先輩後輩関係)とは直接結びつきません。
答え:②
例題2(標準)
問題
次のあらすじで示される小説の題材について、最も中心的なテーマを、後の①~④のうちから一つ選べ。
一人暮らしを始めて数年になる主人公のもとに、父の入院の知らせが届く。何年も疎遠だった父との関係を思い返しながら病院に向かうと、ベッドの上の父は、記憶していたよりもずっと小さく見えた。ぎこちない会話を交わすうちに、主人公は、これまで気づかなかった父の不器用な愛情に、少しずつ気づいていく。
① 他者との関係(友情) ② 家族 ③ 老い・死と向き合う ④ 喪失
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このあらすじには、「父の入院」「父との関係を思い返す」「父の不器用な愛情に気づいていく」というように、複数のテーマの要素(家族、老いや病)が組み合わさっています。このような場合は、あらすじの中心的な軸が何かを考える必要があります。
「老い・死と向き合う」というテーマは、老いや死そのものへの向き合い方(たとえば、死を目前にした人物の心情や、生と死についての考察)が中心になる場合に当てはまりますが、このあらすじの核心は、あくまで「父との関係」を主人公が見つめ直し、気づきを得るという点にあります。入院という出来事は、疎遠だった親子関係を主人公が振り返るきっかけとして機能しており、テーマとしての軸は家族にあると判断するのが適当です。①は友人関係についての記述がなく該当しません。④「喪失」は、何かを失うことそのものが中心になりますが、このあらすじでは父はまだ亡くなっておらず、失うことよりも関係の見つめ直しに重点が置かれています。
答え:②
例題3(応用)
問題
入試現代文における小説の出典傾向について述べたものとして、本文の内容と合致するものを、次の①~④のうちから一つ選べ。
① 入試小説の出典は、必ず現代(平成・令和)の作家の作品から選ばれ、近代の作家の作品が出題されることはない。 ② 入試小説では、派手な事件や複雑な人間関係の展開よりも、日常の中で心情の動きが読み取りやすい場面が選ばれやすい傾向がある。 ③ 作家名や作品名を数多く暗記することが、小説問題を解くための最も重要な対策である。 ④ 「成長」「喪失」「家族」などのテーマは、それぞれ独立していて、一つの文章の中で複数のテーマが組み合わさることはない。
解答・解説を見る
本文の内容を一つずつ確認します。
①について、本文では「近代(明治昭和戦前)の文豪と、現代(戦後平成・令和)の作家の両方から選ばれます」と述べられており、近代の作家の作品も出題されると明記されています。したがって①は誤りです。
②について、本文冒頭で「派手な事件や複雑な人間関係が展開する場面よりも、日常の中の、ささやかだが心情の動きが読み取りやすい場面が選ばれやすい」と明記されており、これは本文の内容と合致します。
③について、本文では「作家や作品についての知識は、あくまで文章全体の雰囲気をつかむ補助として活用しましょう」と述べられており、暗記そのものが最も重要な対策だとは述べられていません。したがって③は誤りです。
④について、例題2で確認したように、一つのあらすじの中に複数のテーマの要素が組み合わさることは実際にあり、本文もそれを否定していません。したがって④は誤りです。
答え:②
確認問題
問題
次のあらすじで示される小説の題材は、本文で学んだ頻出テーマのうち、どれに最も近いか、テーマ名を一つ答えよ。
幼い頃から可愛がってくれた祖母が亡くなり、主人公は形見の古い着物を受け継ぐ。着物に袖を通すたびに、祖母と過ごした夏の記憶がよみがえり、主人公は寂しさを感じながらも、祖母から受け継いだものの大切さを胸に刻んでいく。
答え
喪失(死別を通じて、失われたものの大切さに気づいていくテーマ)