古典(古文) / 古文読解

古文読解の解き方(文脈把握と省略の補い方)

要点整理

古文で省略されるのは主語だけではない

これまでの単元で、古文は主語がよく省略されることを学びました。しかし、省略されるのは主語だけではありません。目的語(「〜を」にあたる部分)や、引用の格助詞「と」なども、文脈から分かる場合は省略されます。したがって、古文を正確に読むには、文法・語彙・敬語の知識を総動員して、省略された要素を能動的に補いながら読む姿勢が必要です。

読解の手順:場面・人物関係を整理しながら読む

  1. 誰が出てくるか(登場人物)を洗い出す。名前や身分を表す語(帝、大納言、女房、翁など)に印をつけながら読むと、後で見返しやすくなります。
  2. 場面(いつ・どこ)を確認する。時間や場所を表す語句(「秋のころ」「内裏にて」など)から状況をイメージします。
  3. 敬語で人物の身分関係を把握する。前の単元で学んだ通り、尊敬語・謙譲語から動作主・客体の相対的な身分を推定します。
  4. 会話文と地の文を区別する。会話文の中では、それまでの地の文の主語をいったん切り離して考えます。
  5. 省略された主語・目的語を補いながら現代語訳する。特に、動詞の前に隠れている「誰が」「何を」を意識して補います。

会話文の見分け方

現代の教科書や問題集では、多くの場合「」(かぎかっこ)で会話文が示されています。しかし、これは後世の校訂者が読みやすさのために付けたもので、原文自体には「」がない場合もあります。「」に頼りきらず、次のような表現に注目して会話文の範囲を判断する力もつけておきましょう。

  • 「と言ふ」「とて」「となむ」「と思ふ」:引用の格助詞「と」の直前までが、発言や心の中の言葉(引用部分)です。
  • 会話文の中では、敬語の使い方が地の文と変わることがあります(話者が誰に対して話しているかによって敬語の対象が変わるため)。敬語のレベルが急に変わったところは、会話文の始まりの合図になることがあります。

省略された目的語・引用の補い方

「〜と思ひて、〜と言ひければ」のように、動詞「思ふ」「言ふ」の直前に本来あるはずの引用内容(発言や思考の中身)が、直前の文脈からすでに分かるという理由で省略されることもあります。この場合は、その前の文脈をもう一度確認し、「何を思ったのか」「何を言ったのか」を具体的に補って現代語訳する必要があります。

例題

例題1(基本)

問題

次の文で、登場人物・場面・敬語の3点を整理せよ。

「昔、ある宮に、いと美しき姫君おはしけり。ある時、帝、その噂を聞こし召して、御文を遣はしける。」

解答・解説を見る

登場人物:姫君、帝

場面:ある宮(邸)にいる姫君の噂を、帝が耳にした場面。

敬語:「おはし(おはす)」は尊敬語で姫君への敬意(高貴な姫君であることがわかる)。「聞こし召し」は「聞く」の尊敬語で帝への敬意。「遣はし」も動作主である帝への敬意を含む語です(「遣はす」は「与ふ・行かす」の尊敬語)。地の文全体を通して、姫君にも帝にも敬語が使われていることから、二人とも身分の高い人物として描かれていることがわかります。

答え:登場人物は姫君と帝/場面はある宮にいる姫君の噂を帝が聞いた場面/姫君・帝ともに尊敬語で描かれる高貴な人物

例題2(標準)

問題

次の文について、①会話文の範囲を指摘し、②会話文の中の省略された主語を補って現代語訳せよ。

「女、『いかで御返事申さん』と思ひわづらひて、涙のみこぼれけり。」

解答・解説を見る

①「いかで御返事申さん」の直後に、引用の格助詞「と」があるので、ここまでが女の心の中の言葉(心内文)です。

②会話文(心内文)の中の主語は明示されていませんが、「御返事申さん」(お返事を申し上げよう)と考えているのは、直前に示された「女」自身です。

現代語訳:「女は、『どうやってお返事を差し上げようか』と思い悩んで、涙ばかりがこぼれるのだった。」

答え:①「いかで御返事申さん」までが心内文/②主語は女(現代語訳:女は「どうやってお返事を差し上げようか」と思い悩んで、涙ばかりがこぼれた)

例題3(応用)

問題

次の文を、省略されている要素を補いながら現代語訳せよ。

「使ひ、御文を持て参りたれば、女、あけて見るに、いといみじう心細きことの多く書かれたれば、返す返す見て、ふところに入れつ。」

解答・解説を見る

主語の変化を接続助詞で追うと、「使ひ、御文を持て参りたれば」(使者が手紙を持って参上したところ)で場面が始まり、「ば」(已然形接続、確定条件)を挟んで主語が「女」に転換します。「女、あけて見るに」以降、「見て」「入れつ」まで、「に」「て」でつながる間は主語は女のまま続いていると判断できます(「に」は本来主語転換の傾向がある接続助詞ですが、ここでは直前に主語「女」が明示されているため、そのまま女の動作が続きます)。

省略されている目的語も補うと、「(女が)いといみじう心細きことの多く書かれたれば」の部分は、「(手紙に)たいそう心細い内容が多く書かれていたので」という意味です。

現代語訳:「使者が手紙を持って参上したところ、女がそれを開けて見ると、(手紙には)たいそう心細い内容がたくさん書かれていたので、(女は手紙を)何度も読み返して、懐に入れた。」

答え:使者が手紙を持って参上したところ、女がそれを開けて見ると、たいそう心細い内容がたくさん書かれていたので、(女は)何度も読み返して、懐に入れた。

確認問題

問題

「僧、『この経を読み給へ』と言ひければ、翁、うけたまはりて、涙を流しけり。」について、会話文の範囲を指摘せよ。

答え

「この経を読み給へ」まで(直後に引用の格助詞「と」があるため)