古典(古文) / 助詞・敬語
敬語の種類(尊敬・謙譲・丁寧)
要点整理
敬語の3分類
敬語は、誰に対する敬意を表しているかによって、次の3種類に分けられます。
- 尊敬語:動作をする人(動作主・主語)を高める敬語。動作主が話し手・書き手より身分の高い人物であることを示します。
- 謙譲語:動作を受ける人(動作の相手・客体)を高める敬語。動作主自身がへりくだることで、相対的に相手を高めます。
- 丁寧語:聞き手・読み手に対して丁寧に述べる敬語。動作主にも動作の相手にも関係なく、単に述べ方が丁寧になります。
この3分類を正確に区別できるようになると、後の単元(敬語からの人物関係の把握)で、誰が誰に敬意を払っているかを読み取り、省略された主語を推定する強力な手がかりになります。
尊敬の本動詞
| 敬語動詞 | 元の動詞 | 現代語訳 |
|---|---|---|
| おはす・おはします | あり・をり・行く・来 | いらっしゃる |
| のたまふ・のたまはす | 言ふ | おっしゃる |
| 御覧ず | 見る | ご覧になる |
| 大殿籠る(おほとのごもる) | 寝(ぬ) | お休みになる |
| 聞こし召す | 聞く・食ふ・飲む・治む | お聞きになる・召し上がる・お治めになる |
| 思す・思し召す | 思ふ | お思いになる |
| 仰す(おほす) | 言ふ | おっしゃる、命じられる |
「聞こし召す」は、聞く・食べる・飲む・治めるという複数の動詞の尊敬語を兼ねる語なので、文脈でどの意味かを判断する必要があります。
謙譲の本動詞
| 敬語動詞 | 元の動詞 | 現代語訳 |
|---|---|---|
| まゐる・まうづ | 行く・来 | 参る、参上する |
| まゐる | 食ふ・飲む | いただく |
| 奉る(たてまつる) | 与ふ | 差し上げる |
| 申す・聞こゆ・聞こえさす | 言ふ | 申し上げる |
| 賜る・給はる(たまはる) | 受く | いただく、頂戴する |
| 仕うまつる(つかうまつる) | す・行ふ | いたす、お仕え申し上げる |
「奉る」には特別な用法があります。本来は「与ふ」の謙譲語(差し上げる)ですが、平安時代以降、「着る・乗る・食ふ」という動作に付いた場合に限って、例外的に尊敬語(お召しになる、お乗りになる)として使われることがあります。「奉る=謙譲語」と機械的に覚えるだけでなく、この特殊用法もあわせて押さえておきましょう。
丁寧の本動詞と、謙譲・丁寧を兼ねる語
| 敬語動詞 | 元の動詞 | 現代語訳・注意点 |
|---|---|---|
| 侍り(はべり) | あり・をり | ①謙譲語(お仕えする、伺候する)/②丁寧語(あります、ございます) |
| 候ふ(さぶらふ・そうろう) | あり・をり | 「侍り」と同じく、①謙譲語(お仕えする)/②丁寧語(あります、ございます) |
「侍り」「候ふ」は、話し手が身分の高い人のそばに控えているという意味で使われれば謙譲語、単に物事の存在や状態を丁寧に述べているだけなら丁寧語です。文脈で、動作としての「仕える」意味が生きているかどうかを確認しましょう。
補助動詞としての敬語
ここまでの敬語動詞の多くは、動詞の連用形に付く補助動詞としても使われます。補助動詞になると、本来の動詞としての意味(見る、言ふ、など)は失われ、もっぱら敬意を添える働きだけを担います。
- 尊敬の補助動詞:〜給ふ(四段)「〜なさる、お〜になる」/〜おはします「〜でいらっしゃる」
- 謙譲の補助動詞:〜奉る「〜し申し上げる」/〜聞こゆ「〜し申し上げる」
「給ふ」の四段活用と下二段活用
「給ふ」は特に重要な語で、活用の種類によって敬語の種類が変わります。
| 活用の種類 | 主な活用形 | 敬語の種類 | 使われる場面 |
|---|---|---|---|
| 給ふ(四段活用) | 未然:給は/連用:給ひ/終止:給ふ/連体:給ふ/已然:給へ/命令:給へ | 尊敬 | 地の文・会話文の両方で、他者の動作に付く |
| 給ふ(下二段活用) | 未然:給へ/連用:給へ/終止:給ふ/連体:給ふる/已然:給ふれ/命令:給へよ | 謙譲(丁重) | ほぼ会話文・手紙文・心内語に限られ、自分自身の動作に付く |
下二段活用の「給ふ」は、「思ひ給ふ」「見給ふ」のように、話し手が自分の動作をへりくだって述べるときに使われ、「〜ております」に近いニュアンスを添えます。已然形「給ふれ」や連体形「給ふる」など、四段活用にはないe段の活用形が出てきたら、下二段(謙譲)の「給ふ」だと判断できます。
例題
例題1(基本)
問題
次の敬語動詞を、尊敬・謙譲・丁寧のいずれかに分類せよ。
①のたまふ ②まゐる(「行く」の意味で) ③侍り(「ございます」の意味で) ④聞こし召す
解答・解説を見る
①「のたまふ」は「言ふ」の尊敬語なので尊敬。 ②「まゐる」を「行く・来」の意味で使う場合は、動作の相手(参上する先の人物)への敬意を表す謙譲。 ③「侍り」を「ございます」の意味で使う場合は、聞き手への敬意を表す丁寧。 ④「聞こし召す」は「聞く・食ふ・飲む・治む」の尊敬語なので尊敬。
答え:①尊敬/②謙譲/③丁寧/④尊敬
例題2(標準)
問題
次の一文を現代語訳し、傍線部の敬語動詞の種類(尊敬・謙譲・丁寧)を答えよ。
「中納言、御前に参りたまひて、事の由を申し給ふ。」
解答・解説を見る
「参り」は「行く」の謙譲語で、動作の相手(御前=天皇や高貴な方のいる場所)への敬意を表しています。続く「たまひ」は尊敬の補助動詞で、動作主である中納言への敬意を表しています。「申し」は「言ふ」の謙譲語で、事情を申し上げる相手への敬意、「給ふ」は再び尊敬の補助動詞で中納言への敬意です。
このように、一つの動作に謙譲語と尊敬語の両方が付くことを二方面への敬語と呼びます(次の単元で詳しく学びます)。中納言は、天皇など目上の人に対しては謙譲語でへりくだりつつ、動作主としては尊敬語で高められている、という構造です。
現代語訳:「中納言は、御前に参上なさって、事情を申し上げなさる。」
答え:「参り」謙譲/「たまひ」尊敬/「申し」謙譲/「給ふ」尊敬
例題3(応用)
問題
次の①②の「給ふ」について、それぞれ四段活用・下二段活用のどちらか、また尊敬・謙譲のどちらかを答えよ。
①「かの大臣、いといつくしう給ふこと限りなし。」(地の文、貴人の動作について) ②「いかにおぼつかなく思ひ給へしか。」(会話文、話し手自身の動作について)
解答・解説を見る
①「給ふ」の下に体言(名詞)が続く形はここでは連体形の位置にあり、「給ふ」という終止形に近い形(あるいは連体形と同じ形)で使われています。四段活用の「給ふ」は終止形・連体形がともに「給ふ」なので、この形からは四段活用と判断できます。地の文で他者(大臣)の動作に付いていることからも、尊敬の四段活用と判断できます。
②「思ひ給へ」の「給へ」は、その後に過去の助動詞「き」の已然形(または連体形)「しか」が続いています。四段活用の已然形も「給へ」ですが、ここでは会話文の中で話し手自身の動作(「不安に思う」)に付いており、この使い方は下二段活用の「給ふ」に特徴的なパターンです。文脈(自分の動作をへりくだる会話文)から判断すると、これは下二段活用の謙譲(丁重)の「給ふ」です。
答え:①四段活用・尊敬/②下二段活用・謙譲
確認問題
問題
「かの僧、御前に候ひて、法文を読み上げけり。」の傍線部「候ひ」は、謙譲語・丁寧語のどちらか。理由もあわせて答えよ。
答え
謙譲語(「御前に候ひて」で、身分の高い人のそばに控えている、仕えているという動作の意味が生きているため)