現代文 / 現代文の読み方の基本

具体と抽象の関係

要点整理

具体例の役割

評論文の中には、しばしば具体的なエピソードやデータが登場します。これらの具体例は、それ自体が主張なのではなく、あくまで筆者の抽象的な主張を、読者に分かりやすく伝えるための道具として挙げられています。したがって、具体例を読んだときには、「この具体例は、いったい何を言うために挙げられているのか」を必ず自問する必要があります。

具体例だけを読んで満足し、その具体例が支えている抽象的な主張(多くの場合、具体例の直前・直後の段落に書かれています)を確認しないまま読み進めてしまうのは、現代文が苦手な人によく見られる読み方の落とし穴です。

抽象化のプロセス

筆者は、複数の具体例に共通する性質を取り出すことで、抽象的な主張を組み立てています。この、複数の具体から共通点を抜き出して一段階上のレベルでまとめる作業を**一般化(抽象化)**と呼びます。

たとえば「電子レンジで待ち時間が減った」「動画配信サービスで次回を待つ時間がなくなった」という2つの具体例から、「テクノロジーは『待つ』という経験を短縮している」という、より一段抽象度の高い主張が導かれる、という具合です。評論文を読むときは、個々の具体例だけでなく、それらの具体例に共通する性質は何かを、自分の頭でも一段抽象化しながら読み進めると、筆者の主張をつかみやすくなります。

具体⇄抽象の往復読み

評論文の読解力を高めるうえで最も重要な習慣は、具体的な記述に出会ったら「これは何の抽象的主張の例か」と考え、抽象的な記述に出会ったら「これを具体的に言うとどうなるか」と考える、具体と抽象を絶えず往復する読み方です。

  • 具体 → 抽象:「この例が示しているのは、要するにどういうことか」を一言でまとめてみる。
  • 抽象 → 具体:「この主張を、もし自分で具体例を挙げて説明するとしたら、どんな例が考えられるか」を想像してみる。

この往復ができるようになると、記述問題で「具体例をもとに、筆者の主張を一般化して説明する」ことや、逆に「抽象的な主張について、本文にない具体例を自分で考えて説明する」ことが求められる、応用的な設問にも対応できるようになります。

具体例が複数ある場合の読み方

1つの主張に対して具体例が2つ以上並べられている場合、それらの具体例は単なる繰り返しではなく、多くの場合、主張の異なる側面を補い合うために選ばれています。複数の具体例に共通する要素と、それぞれ異なる要素を整理して読むと、抽象的な主張の輪郭がより正確につかめます。

例題

例題1(基本)

問題

次の文章で、2つの具体例(電車の遅延情報アプリ、天気予報アプリ)が共通して支えている、抽象的な主張を1文でまとめよ。

電車が遅れそうなとき、遅延情報アプリを見れば、駅に着く前から状況が分かり、慌てずに次の行動を選べる。急な雨が心配なときも、天気予報アプリを見れば、傘を持つべきかどうかをあらかじめ判断できる。私たちは、こうした技術によって、不確実な状況にいきなり直面する場面を、以前よりも大きく減らすことができるようになった。

解答・解説を見る

2つの具体例に共通する要素を取り出します。遅延情報アプリの例は「事前に状況が分かることで、慌てずに行動を選べる」、天気予報アプリの例は「事前に判断できることで、傘を用意できる」という内容です。どちらも「事前に情報を得ることで、不確実な状況にいきなり直面せずに済む」という点で共通しています。

実際、この文章では最後の一文で、筆者自身がこの2つの具体例を一段抽象化してまとめています。

答え:私たちは技術によって、不確実な状況にいきなり直面する場面を減らせるようになった。

例題2(標準)

問題

次の文章の抽象的な主張(第1文)を、後に続く具体例と対応づけて説明せよ。

言葉は、私たちの認識のあり方そのものを形作っている。たとえば、雪の状態を表す語彙を多く持つ言語の話者は、同じ雪景色を見ても、湿った雪と乾いた粉雪の違いを、無意識のうちに区別して認識するといわれる。また、色を表す語の区切り方が言語によって異なるため、ある言語では同じ色として扱われる2つの色が、別の言語では明確に異なる色として区別されることもある。

解答・解説を見る

第1文「言葉は、私たちの認識のあり方そのものを形作っている」は抽象度の高い主張です。この主張がそのままでは分かりにくいため、筆者は2つの具体例でそれを裏づけています。

1つ目の例(雪を表す語彙)は、「言語が持つ語彙の細かさが、実際に見えている世界の区別の仕方に影響する」ことを示しています。2つ目の例(色の区切り方)も同様に、「言語による色の分類の違いが、色の見え方そのものの区別に影響する」ことを示しています。

どちらの具体例も、「言葉の違いが、単なる呼び方の違いにとどまらず、実際に世界をどう認識するかという、認識の中身そのものに影響を与える」という第1文の抽象的な主張を、異なる具体的な領域(雪・色)で裏づける役割を果たしています。

答え:第1文は「言葉が認識のあり方を形作る」という抽象的な主張であり、雪の語彙の例と色の区切り方の例は、どちらも言語の違いが実際の知覚・認識の区別の仕方に影響することを、異なる具体的な領域で示すことで、この抽象的な主張を裏づけている。

例題3(応用)

問題

次の文章を読み、筆者の主張を一般化した1文としてまとめたうえで、本文に書かれていない新しい具体例を1つ自分で考えて挙げよ。

古い建物を保存する運動に対して、「使い勝手が悪い建物を残す意味はない」という批判がある。しかし、ある町では、老朽化した木造の校舎を、あえて修復して図書館として使い続けている。最新設備を備えた新しい建物を建てる方が効率的だという意見もあったが、住民の多くは、自分たちが通った校舎の廊下やにおいに、新しい建物では得られない愛着を感じるという。効率だけでは測れない価値が、古いものにはある。

解答・解説を見る

まず具体例(木造校舎を図書館として使い続けている町の例)が、何を示すために挙げられているかを確認します。これは、「効率だけを基準にすれば取り壊すべき古い建物にも、住民の愛着という、効率では測れない価値がある」ということを裏づけるための具体例です。

これを一般化すると、「物事の価値は、効率性だけでなく、それに対する人々の愛着や思い出のような、数値化しにくい要素によっても決まる」という主張にまとめられます。

この一般化された主張に当てはまる、本文にない新しい具体例を考えます。たとえば「使い慣れた古い道具(万年筆や楽器など)を、性能の良い新品に買い替えずに使い続ける人がいる」という例は、同じ「効率では測れない愛着の価値」を別の領域で示す具体例として適切です。

答え:一般化した主張=物事の価値は効率性だけでなく、人々の愛着のような数値化しにくい要素によっても決まる。新しい具体例の例=使い慣れた古い万年筆を、性能の良い新品に買い替えずに使い続ける人がいる、など。

確認問題

問題

次の文章で、具体例(方言を話す祖父母との会話)が支えている抽象的な主張を、1文でまとめよ。

方言を話す祖父母と話すとき、若い世代は聞き慣れない言葉に最初は戸惑うが、何度も会話を重ねるうちに、細かい意味の違いまで自然と理解できるようになっていく。ある土地の言葉を本当に理解するとは、辞書的な意味を覚えることではなく、その言葉が使われる場面に繰り返し身を置くことによって、初めて可能になるのだろう。

答え

言葉を理解するとは、その言葉が使われる場面に繰り返し身を置くことで初めて可能になる。