漢文 / 句法の基礎(訓読の仕組み)
再読文字
要点整理
再読文字とは
漢文の中には、一つの漢字を、一つの文の中で2回読むという、少し変わった決まりを持つ文字があります。これを再読文字と呼びます。
再読文字は、1回目は文の前の方で副詞として読まれ、2回目は文の終わりに近いところで助動詞のように平仮名で読まれます。返り点によって語順を入れ替えるのとは別の、この8字に限った特別な読み方の約束事だと考えてください。実際、再読文字自体には返り点(レ点など)は付きません。ただし、同じ文の中の他の字には、通常どおり返り点が付くことがあります。
高校でおもに学習する再読文字は、次の8字です。
未・将・且・当・応・宜・須・猶
8字それぞれの読み方と意味
- 未(いまダ〜ず):「まだ〜ない」。何かがまだ実現していないことを表します。
- 将(まさニ〜す・んとす):「今にも〜しようとする」。近い未来に何かが起ころうとしていることを表します。
- 且(まさニ〜す・んとす):意味・読み方とも将とほぼ同じで、「今にも〜しようとする」を表します。
- 当(まさニ〜べし):「当然〜すべきだ」。当然の義務や道理を表します。
- 応(まさニ〜べし):当と似ていますが、「きっと〜のはずだ」という、推量寄りのニュアンスを持つことが多い字です。
- 宜(よろシク〜べし):「〜するのがよい」。忠告・勧めのニュアンスを持ちます。
- 須(すべかラク〜べし):「ぜひ〜する必要がある」。強い必要性を表します。
- 猶(なホ〜ごとシ):他の7字と違い、義務や推量ではなく**たとえ(比喩)**を表します。「ちょうど〜のようだ」という意味です。
書き下し文の作り方
再読文字を書き下し文にするときの手順は、次の通りです。
- 再読文字の1回目の読みを、その字の位置でそのまま読む(多くは「まさニ」「いまダ」のような副詞の形)。
- 間にある動詞・目的語などを、通常の返り点のルールに従って読む。
- 文の最後(または動詞のすぐあと)で、再読文字の2回目の読みを平仮名だけで補う。
書き下し文に清書するときは、1回目の読みの部分は元の漢字を使い、2回目の読みの部分は漢字を書かずに平仮名だけを添える、という点に注意してください。
例題
例題1(基本)
問題
次の文を書き下し文にせよ。
未レ習(ハ)。
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「未」は再読文字で、1回目は「いまダ」、2回目は「ず」と読みます。
まず1回目の読みとして「未」を「いまダ」と読みます。続いて「習」にレ点が付いているので(この文では「未」以外に返る対象がないため、レ点は「習」自体の活用を示す働きをしています)、「習は」と読みます。最後に「未」の2回目の読みとして「ず」を補います。
答え:いまだ習はず。
「まだ習っていない」という意味になります。1回目の「いまダ」は漢字の「未」をそのまま用い、2回目の「ず」は平仮名だけで書くことを確認してください。
例題2(標準)
問題
次の文を書き下し文にせよ。
国 且レ亡(ビ)。
解答・解説を見る
「且」は「将」と同じ働きの再読文字で、1回目は「まさニ」、2回目は「す」または「んとす」と読みます。
「国」はそのまま読みます。続いて「且」の1回目の読み「まさニ」を読みます。「亡」にレ点が付いているので、「亡び」と読んでから、「且」の2回目の読み「んとす」を補います。
答え:国まさに亡びんとす。
「国が今にも滅びようとしている」という意味になります。
例題3(応用)
問題
次の文を書き下し文にせよ。
過猶レ不レ及。
解答・解説を見る
「猶」は再読文字で、1回目は「なホ」、2回目は「ごとシ」と読みます。他の7字と違い、比喩(たとえ)を表す点に注意しましょう。
まず「過」(過ぎたるもの、行き過ぎ)を読みます。続いて「猶」の1回目の読み「なホ」を読みます。
次に「不レ及」の部分を処理します。「及」にレ点が付いているので、「及」を先に読んでから「不」に返ります。「及ばざる」となります(打消の「不」は平仮名「ず」の連体形「ざる」で読みます)。
最後に、「猶」の2回目の読みとして「ごとシ」を補います。
読む順は「過→猶(1回目)→及→不→猶(2回目)」です。
答え:過ぎたるは猶及ばざるがごとし。
これは『論語』にある有名な一節で、「行き過ぎは、足りないのとちょうど同じようなものだ」という意味です。何事も程よい程度(中庸)が大切だという教えとして、「過ぎたるは猶及ばざるがごとし」という言葉自体が、今でもことわざとして使われています。
確認問題
問題
次の文を書き下し文にせよ。
須レ努力(セ)。
答え
すべからく努力すべし。