文学史 / 古典文学史

近世文学(江戸時代:井原西鶴・松尾芭蕉・近松門左衛門)

要点整理

近世文学とは何か

近世文学は、江戸幕府が開かれた1603年から明治維新の1868年までの、江戸時代を中心とする文学です。この時代の大きな特徴は、政治の実権を握る武士だけでなく、経済力を蓄えた町人が、文化の新しい担い手として台頭したことです。木版印刷による出版が普及したことも重なり、町人を読者・観客とする、娯楽性の高い文学が大きく花開きました。

近世文学は、活躍した時期によって大きく2つに分けられます。17世紀末から18世紀初め、上方(京都・大阪)を中心に栄えた文化を元禄文化と呼び、この時代に井原西鶴・松尾芭蕉・近松門左衛門という3人の巨匠が同時代に活躍しました。一方、19世紀初め、江戸を中心に栄えた文化を化政文化と呼び、こちらは滑稽本や読本といった、また異なるジャンルが発達します(この時代については後述します)。まずは元禄文化の3大ジャンルを、確実に押さえましょう。

ジャンル 代表作者 代表作
浮世草子(小説) 井原西鶴 好色一代男・日本永代蔵
俳諧 松尾芭蕉 奥の細道
浄瑠璃(戯曲) 近松門左衛門 曾根崎心中

浮世草子と井原西鶴

井原西鶴は、町人の生活をありのままに、時に誇張しながら描いた小説のジャンルである「浮世草子」を確立した作者です。西鶴の作品は、内容によっていくつかに分類されます。

好色物は、恋愛や色恋を主題とした作品群で、代表作に『好色一代男』があります。町人物は、町人の経済活動や金銭にまつわる知恵・悲喜劇を描いた作品群で、金儲けの才覚を持つ町人たちを描いた『日本永代蔵』、金銭にまつわる町人たちの決算日の悲喜劇を描いた『世間胸算用』が代表作です。このほか、武士の意地や忠義を描いた武家物である『武家義理物語』もあります。西鶴の作品全体に共通するのは、町人社会をありのままに、しかし人間の欲望や本音を鋭くえぐるように描く、写実的な視点です。

俳諧と松尾芭蕉

俳諧は、もともと和歌の上の句・下の句を複数人で交互に詠み継ぐ「連歌」から、より自由で滑稽な要素を持つ形式として独立したものです。この俳諧を、単なる言葉遊びから、自然や人生の深い味わいを詠み込む高い芸術性を持つ文芸へと高めたのが松尾芭蕉です。

芭蕉が確立した作風を「蕉風俳諧」と呼びます。芭蕉は、各地を旅しながら俳諧を詠み、その旅の記録を紀行文としてまとめました。代表作が**『奥の細道』**で、江戸から東北・北陸を経て大垣に至る長い旅の記録に、数々の名句が織り込まれています。芭蕉が晩年に到達した境地を表す言葉として、静かな趣を意味する「さび」、ほのかな余情を意味する「しをり」、そして日常のありふれた事柄を平明に詠む「軽み」といった美的理念が知られています。芭蕉の弟子たちは「蕉門十哲」と呼ばれ、俳諧の裾野を広げました。

なお、芭蕉の後、化政文化の時代には与謝蕪村(絵画的で華やかな句風)や小林一茶(生活感あふれる素朴な句風)といった俳人も活躍しており、あわせて名前を覚えておくとよいでしょう。

浄瑠璃・歌舞伎と近松門左衛門

近松門左衛門は、人形浄瑠璃の脚本(戯曲)を数多く手がけた作者です。人形浄瑠璃は、三味線の伴奏とともに太夫(語り手)が物語を語る「浄瑠璃」に合わせて、人形遣いが人形を操って演じる伝統芸能で、当時の名太夫竹本義太夫が語った独特の節回しから「義太夫節」とも呼ばれます。

近松の作品は、大きく2種類に分類されます。世話物は、同時代の町人社会に実際に起きた事件(特に心中事件)を題材とした作品群で、代表作に、大阪で実際に起きた心中事件を題材にした**『曾根崎心中』があります。義理と人情の板挟みの中で悲劇的な最期を迎える男女の姿は、当時の観客の心を強く揺さぶりました。時代物は、歴史上の出来事や武家社会を題材とした、よりスケールの大きな作品群で、代表作に『国性爺合戦』**があります。

化政文化とその後の展開(発展)

元禄文化からやや時代が下った江戸後期(化政文化の時代)にも、重要な文学的展開がありました。国学者の本居宣長は、『古事記』を実証的に研究した大著**『古事記伝』を著し、日本古来の精神を明らかにしようとしました。小説の分野では、上田秋成が怪異譚を集めた『雨月物語』(読本)を著し、後には滝沢馬琴(曲亭馬琴)が、勧善懲悪を基調とする長編『南総里見八犬伝』**(読本)を著しました。これらは、元禄期の3大ジャンル(浮世草子・俳諧・浄瑠璃)とは異なる、近世文学のもう一つの重要な流れとして押さえておきましょう。

まとめ

近世文学は、「元禄文化=上方中心=西鶴(浮世草子)・芭蕉(俳諧)・近松(浄瑠璃)」という組み合わせをまず確実に覚え、そのうえで「化政文化=江戸中心=読本(上田秋成・滝沢馬琴)や国学(本居宣長)」という後期の展開を追加で押さえる、という2段階の理解の仕方が効果的です。

例題

例題1(基本)

問題

元禄期を代表する浮世草子の作者は誰か答えよ。また、その代表作を、内容の分類(好色物・町人物のいずれか)がわかる形で1つ挙げよ。

解答・解説を見る

元禄期を代表する浮世草子の作者は井原西鶴です。浮世草子は、町人の生活をありのままに描いた小説のジャンルで、西鶴が確立しました。

代表作としては、色恋を主題とした好色物の『好色一代男』、あるいは町人の経済活動や金銭にまつわる出来事を描いた町人物の『日本永代蔵』『世間胸算用』のいずれかを挙げれば正解です。作品名だけでなく、それが好色物・町人物のどちらに分類されるかまで説明できるようにしておくと、より深い理解につながります。

答え:井原西鶴。好色物なら『好色一代男』、町人物なら『日本永代蔵』(または『世間胸算用』)。

例題2(標準)

問題

近松門左衛門の浄瑠璃作品における「世話物」と「時代物」の違いを説明し、それぞれの代表作を1つずつ挙げよ。

解答・解説を見る

世話物は、近松門左衛門が生きた同時代の町人社会に、実際に起きた事件(特に心中事件など)を題材とした作品群です。当時の観客にとって身近で生々しい題材であり、義理と人情の間で苦しむ登場人物の姿が、強い共感を呼びました。代表作は、大阪で実際に起きた心中事件を題材にした**『曾根崎心中』**です。

時代物は、歴史上の出来事や武家社会など、より過去の、スケールの大きな題材を扱った作品群です。代表作は、中国の史実や伝説を題材にした**『国性爺合戦』**です。

両者の違いをまとめると、「世話物=同時代の町人社会が舞台」「時代物=歴史上の出来事が舞台」という、題材の時代設定による分類だと理解しておくと整理しやすくなります。

答え:世話物は同時代の事件(特に心中事件)を題材とし、代表作は『曾根崎心中』。時代物は歴史上の出来事を題材とし、代表作は『国性爺合戦』。

例題3(応用)

問題

次の説明にあてはまる人物名を答え、判断の根拠となった特徴を本文中の語句を用いて説明せよ。

「俳諧を、単なる言葉遊びから、自然や人生の深い味わいを詠み込む芸術性の高い文芸へと高めた人物。各地を旅した記録である紀行文の代表作を残し、晩年には『さび』『しをり』『軽み』といった境地に至ったとされる。」

解答・解説を見る

「俳諧を芸術性の高い文芸へと高めた」という記述から、俳諧の分野で活躍した人物であることがわかります。俳諧の分野で、これほど高く評価されている人物は松尾芭蕉以外に考えられません。

さらに「各地を旅した記録である紀行文の代表作」という部分は、芭蕉の代表作である**『奥の細道』**を指しており、「さび」「しをり」「軽み」という美的理念も、芭蕉が確立した「蕉風俳諧」を特徴づける、まさに固有の用語です。これらの語句がすべて一致することから、松尾芭蕉と判断できます。

答え:松尾芭蕉。「俳諧を芸術性の高い文芸に高めた」「紀行文(奥の細道)」「さび・しをり・軽み」という記述が、蕉風俳諧の確立者である松尾芭蕉の特徴と一致する。

確認問題

問題

大阪で実際に起きた心中事件を題材とした、近松門左衛門による世話物の代表作の作品名を答えよ。

答え

曾根崎心中